プロフェッショナルに聞くvol.2

中国プラットフォーマーの戦略転換と直面する課題

NTTデータ経営研究所 岡野寿彦シニアスペシャリスト

読者の皆さん、特に中国に駐在している方々は、アリババ、テンセント、美団点評、滴滴出行、バイトダンスなどプラットフォーマーのサービスが、仕事でも生活でも、水や空気のように不可分な存在になっていると思います。それでは、中国のデジタル革命を牽引し影響力を強めるプラットフォーマーは、どのような課題に直面し、克服しようとしているのでしょうか。彼らの戦略転換や課題を理解することで、読者の皆さんが中国デジタル革命の進路を展望し、ビジネスを創るヒントになればと思います。

中国プラットフォーマーの進化プロセス

BAT(百度、アリババ、テンセント)が創業したのは、中国がインターネット起業ブームに沸いた2000年前後。私はIT企業の北京現地法人の総経理を務めていましたが、十数名の優秀層が辞めて起業しては、うまくいかずに戻ってきたことを鮮明に覚えています。多くの起業者は、米国のビジネスモデルを中国に持ち込んでカスタマイズする“Copy to China”でした。BATは、無数の起業者の中の生き残りですが、結果論として3社に共通するのは、「技術の進歩と、信用などの中国の困りごとの解決をうまく組み合わせたこと」、「プラットフォームのモデルの力を引き出したこと」だと思います。さらに、2010年代のスマホの普及という技術の変化点を捉えて、モバイル決済を入り口に、食べる、移動するといった生活サービス(フードデリバリー、配車など)を提供するO2O(Online to Offline)を実現して、事業領域をリアルの世界にまで拡大しました。  しかし、2010年代半ばに大きな転換点が訪れます。ネット人口の増加率が2015年から減少に転じ、それまでの「消費者を集客して、企業に(広告枠として)販売する」という収益モデルに限界がおとずれました。中国政府は、2014年「経済新常態」、2015年「供給側改革」を打ち出し、経済の「量から質への転換」が掲げました。経済成長期から成熟期への移行に対応したビジネスモデルの変革が必要になったのです。美団点評 王興CEO、テンセント 馬化騰CEOは、いずれも、戦略の重点を「企業(供給サイド)の効率化、低コスト化を支援する」、「サプライチェーンの上流に遡って、競争力を強化する」ことに転換する、「互聯網下半場」(インターネット第2ラウンド)入りを掲げたのです。テンセントは「消費インターネットから産業インターネットへ」を提唱し、コンテンツ、製造、金融、医療などの領域において、伝統的企業との提携を通じたビジネスモデル革新を模索しています。また、アリババは、「互聯網下半場」という言葉は用いていませんが、データ駆動型での既存産業再構築の取り組みとして「新小売」、「新製造」、「新金融」というコンセプトを打ち出し、実践面においてトライを進めています。このような状況の中で、2020年に新型コロナの感染拡大の中で、「コロナテック」と呼ばれるデジタルサービスが生み出されたことは、記憶に新しいところです。しかし、コロナによって変化したというよりも、コロナ前からの取り組みが「加速」したと見るべきだと思います。

「ネットとリアルの融合」、「ソフトウェアとハードウェアの融合」における課題

インターネット第2ラウンド入りは、見方を変えると、中国が大衆消費社会から、消費者が個性に拘る時代に転換し、競争の主戦場も、「消費者とのチャネルから、商品やサービスそのものに変化」したと言えます。プラットフォーマーは、単純なマッチング機能(= 消費者と企業をつなげる)だけでは価値を発揮できず、製品やサービスの開発に乗り出すことが必要になりました。アリババのニューリテール(新小売)、ニューマニュファクチャリング(新製造)、ニューファイナンス(新金融)は、まさにこの代表的な取り組みです。そして、より魅力的なサービス、商品を開発するために、「ネットとリアルの融合」、さらに「ソフトウェアとハードウェアの融合」をめぐる競争が繰り広げられています。

すると、プラットフォーマーの経営には課題が生じます。BATや第二世代のTMD(バイトダンス、美団点評、滴滴出行)は、いずれも、大きく投資をして一気にサービスを立ち上げ、消費者とパートナーを集めて「ネットワーク効果」を働かせて、市場を制覇することが得意技でした。しかし、きめの細かなオペレーションの作り込みや安全性が求められる「リアル」や「ハードウェア」では、プラットフォーマーの勝ちパターンが通じなくなります。プラットフォーマーも、リアルの世界でのマネジメント力が問われるようになったのです。2018年ころから、中国IT企業の経営幹部が、日本企業に視察に訪れることが増えましたが、その背景には競争軸の変化に対する彼らの危機感があります。私も、中国プラットフォーマーの視察受け入れを何度か行いましたが、「顧客志向が根付く組織作り」や「中堅社員のロイヤリティの継続確保」など、地道なテーマについて真剣に学ぼうとする彼らの行動力に刺激を受けました。

中国デジタル市場の変化、プラットフォーマーの戦略転換と直面する課題を、機会としてどのように活かせるでしょうか。2つのポイントを提起させていただきます。

  1. ネットとリアルそれぞれに求められるマネジメントのギャップを克服することが、中国では新たな主戦場になっています。中国企業が日本企業のオペレーション能力に期待をしています。この変化に、新たなビジネスチャンスがあるかも知れません。
  2. 「タイムマシン経営」という言葉がありますが、デジタル化に関しては中国市場の動向から日本企業が学べることが多いはずです。ただし、米中対立などもあり、多くの日本企業では、中国との距離感について慎重になっている面もあるでしょう。私たちが、中国で起きている真実を日本に伝えるうえで、本コラムでお話ししたような「全体俯瞰図」を持って、日本の現状と比較すると、受け入れられやすいのではないでしょうか。

<追記>

筆者は、IT企業のマネジャーとして、中国政府系企業との資本提携を通じた事業開発に取り組み、政府系企業(伝統的企業)とプラットフォーマーとが「競争しながら提携する」ことを身近に見てきました。そこでの問題意識に基づいて、多くの中国企業人からヒアリングして、日本経済新聞出版『中国デジタル・イノベーション:ネット飽和時代の競争地図』を9月末に上梓しました。お読みいただければ幸いです。

https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/32358


岡野寿彦 プロフィール

NTTデータ経営研究所シニアスペシャリスト
上智大学法学部卒業。NTTデータにて、1995年から中国郵便貯金システム構築にプロジェクトマネジャーとして参画。98年、北京現地法人トップ。2004年、インド・東南アジアのITサービス事業責任者。11年から上海にて、中国人民銀行直系企業グループとの資本提携による合弁会社 経営陣No.2として経営参画。2016年から現職。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」研究員、日本経済研究センター(JCER)「中国研究会」 コアメンバー


主な著作
『中国デジタル・イノベーション:ネット飽和時代の競争地図』(著作、日本経済新聞出版、2020年)
『中国の経済改革 歴史と外国に学ぶ方法論』(共訳、日本経済新聞出版、2020年)
『テンセントが起こすインターネット世界革命:その飛躍とビジネスモデルの秘密』(監修、アルファベーターブックス、2020年)
『米中激突 中国ビジネスの行方』(共著、日本経済研究センター編、文眞堂、2019年)、

「日経ビジネス・オンライン」ゼミナール連載「中国プラットフォーム」執筆(2020年)など。

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