Vol.5 【リモート海外進出の幻想】デジタル広告も結局は”現地”が大事

こんにちは、applemint 代表の佐藤です。
台湾でデジタルマーケティングの会社の代表を務めています。

先週弊社は久しぶりにクライアントからクレームのメールを受けました。その内容は、「ここ数ヶ月デジタル広告の効率がずっと低迷していて改善の道筋が見えない!」というものでした。

弊社の改善点は当然ありつつも、残念ながら2021年8月現在、弊社のクライアントの中でデジタル広告がすごく好調なのは飲用水販売会社と玩具メーカーのみです。両社ともコロナウイルスの恩恵をもろに受けています。

それ以外は苦戦しているか、横ばいなのが現状です。興味深いことに、台湾でデジタル広告がうまくいっていない企業の共通点の一つに日本からリモートで台湾に進出していることが挙げられます。要するに台湾に決定権を持つ人がいないということです。逆に台湾でデジタル広告がうまくいっている会社は偶然かもしれませんが、全て台湾に決定権を持つ人がいます。

そこで、今回は一見国境なんてなさそうに見えるデジタル広告でも”現場”にいることは大事である、というとてもアナログなお話をしたいと思います。

デジタル広告の予算を2倍にした某クライアント

台湾では2021年5月からコロナウイルス感染拡大に伴い、警戒レベル3が発動され人々の外出は制限されました。弊社でも5月からは完全にリモートワークを実施しています。

この警戒レベル3による影響は各方面に渡ります。冒頭でもお伝えしたお水を売る会社や玩具メーカーはデジタル広告が好調になった一方で、マッサージ店を経営されている弊社クライアントは営業停止を余儀なくされました。

今回ご紹介したい実例は現在絶好調の飲用水販売会社のクライアントです。結論を言うと、このクライアントは台湾現地にいたからこそ、絶好の機会を得る事が出来たと思っています。

このクライアントは台湾でコロナウイルスが拡大する前はデジタル広告にあまり積極的ではなく、毎月の予算もそこまで多くありませんでした。このクライアントの顧客を獲得するチャネルは主にオフラインで、デパートや高級スーパーに小規模なポップアップストアを出して水の販売をしていました。

それが警戒レベル3が発表された2日後、このクライアントは突然デジタル広告の予算を倍にしたいと連絡をしてきました。その当時ECサイトでは確かに水の品切れが発生していて勝機が訪れていた事は確かなのですが、だからと言って急に予算を倍にすることはなかなかありません。元々デジタル広告に消極的だった会社ならなおさらです。2020年に台湾で一瞬コロナウイルスが拡大した際、絶好調になった玩具メーカーでさえ、2021年5月の警戒レベル3発動時の予算増加は1.5倍ほどです。

では、このクライアントはなぜ広告予算を2倍にする判断をしたのでしょうか?それは総経理(現地法人社長)が台湾で警戒レベル3が発表された次の日、自分の足で販売現場を視察し、あまりに人がいなかったため、デジタルしかないと決心したためです。

現場レベルの温度差

台湾から日本にいるクライアントと会議をするとどうしても温度差が発生する場合があります。例えば、台湾では20代の離職率がものすごく高いのですが、このことを日本にいるクライアントにお話ししてもあまり共感してくれません。

仮に今回飲用水販売会社のデジタルマーケティングの担当者が日本にいたとしましょう。私が台湾で警戒レベル3が発動されて人が全然出歩いていないことをいくら伝えても、あまり伝わらなかったと想像されます。ECサイトで水が品切れていることを伝えても、デジタル広告の予算はせいぜい1-1.5倍程度にしか上がらなかったと思います。むしろまずは様子を見て最初は予算を一切変えなかったかもしれません。

このクライアントは警戒レベル3発動後、デジタル広告の予算をすぐに2倍にして、5月のお問い合わせ件数は2倍以上増えました。もしも予算を上げるタイミングが少しでも遅ければ機会を逃していた可能性もあります。

データも体験も人が欲しいのは根拠

よく、デジタル広告をする際に、いくら予算をかければどれくらい効果があるかシミュレーションを下さいというリクエストが来ます。なぜクライアントはシミュレーションが必要かと言うと、何かを始める時に根拠となる数字が欲しいからだと思います。これは逆を言えば数字が読めない施策はやりたくないということになります。

でも、私は数字より「現場で見た/感じた」エビデンスの方が強い場合が多々あると思っています。つい先日西野亮廣氏が Voicy で『サーカス (世界で一番楽しい授業)』 というイベントの話をしていて、その時の話が今回の話と似ているので共有します。

2021年11月に日本武道館で開催予定の『サーカス』というイベントなのですが、2014年のイベント立ち上げ当初は集客に苦戦したそうです。2021年に武道館で開催されるような集客力のあるイベントとなった今では信じられないですよね?

最初にこのイベントをした時お客さんがあまりいなかったので、西野氏のマネージャーはイベントを打ち切ろうという話をしたそうです。しかし、初回のイベントでお客さんが楽しそうにしている反応を見て、西野氏は問題ないと確信してイベントを続ける決心をしました。その後このイベントは武道館レベルに成長しました。

もしも西野氏が初回のイベントでお客さんの反応を見ないで”集客数”だけを見ていたら、このイベントは1回だけで終わっていたかもしれません。

世の中は便利になり、zoom や slack があればいつでも海外の人とコミュニケーションが取れるようになりました。もちろんデジタル広告も日本にいながら台湾の消費者向けに配信することは可能です。しかし、それでも私は海外に進出する企業様には必ず進出先に行くことをお勧めします。

それは、結局デジタル広告もデジタルよりもアナログで見た経験や感じたことが大事になる場合があるからです。もしこれをご覧の方で現在海外進出を考えている企業の方は、日本からリモートで進出するのではなく今一度決心をして海外に出ることをお勧めします。


佐藤峻 プロフィール

国際基督教大学教養学部教育学科卒。

國立政治大學國際經營管理英語修士(ビジネススクール)修了。


新卒後メーカー勤務を経て、外資系広告代理店WPP マーケティングコミュニケーションズ合同会社入社(現Wunderman Thompson Japan)

その後、台湾の日系広告代理店を経て、2017年にデジタルマーケティングの会社 applemintを台湾で起業。

外部からの出資0、人脈なし、営業経験なしから現在までに40社以上の台湾プロモーションを担当。

手がけた業種はBtoC、DtoC、BtoB、アパレル、コスメ、ホテル、ジュエリー、機械メーカーと多岐にわたる。


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