Vol.9 ニュースや情報に対する日本人と台湾人の意識の違い

こんにちは applemint 代表の佐藤です。
今回は台湾人と日本人の「ニュース」や「情報」に対する意識の違いについてお伝えします。
先日朝日新聞を辞めた記者による朝日新聞の現状に関する記事がとても話題を呼びました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b63c2b551eee9909064751c227e0cb7b99cfffce
どうやら日本で有名な朝日新聞は現在経営状況があまりよくなく、早期退職者を募集して人件費の削減を目指しているようです。
この朝日新聞が経営不況に陥っている要因の一つにデジタル化が挙げられています。日経新聞を除く新聞社は軒並みデジタル化の波に遅れ、デジタル領域では収益を上げられていないようです。
しかしこのデジタル領域で収益を上げるというのは本当に難しいです。なぜならみなさんにはニュースや情報は無料という意識があるからです。特に台湾ではその意識が強いように思います。
今回は筆者が感じる台湾人と日本人の情報に対する意識の違いと、普段から職業柄デジタルメディアに接している筆者からこれからの時代の情報との向き合い方についてお話をしたいと思います。
Contents
ネットの情報に対してお金を払う事を浪費と感じる多くの台湾人
以前換日線という台湾のメディアで筆者が『他每天只發電子報,月收超過 2,100 萬新台幣──日本正夯的「線上沙龍」,與「最強經營者」西野亮廣』という、日本で
オンラインサロンが流行っているというコラムを出した際、色々な反響がありました。多くの台湾人からすると、ただのメルマガに毎月300元を払うのが信じられなかったと思います。
実際筆者は様々な有料ニュースサイトにお金を払っていますが、台湾の人からは度々不思議がられます。「Google で検索すれば情報は出てくるじゃないか!」「ネットの情報にお金を払うなんてもったいない!」「Yahoo TW や LINE Today を見ればいいじゃないか」というのが彼らの意見です。
その気持ちはものすごくわかります。筆者もそんな事を思っていた一人でした。我々はいつの間にかニュースや情報をタダで取得することに慣れてしまい、それらが課金されると知ると拒否反応を起こすようになりました。
まだまだこういう考えを持っている人が全体の9割ぐらいだと思いますが、日本は少しずつ情報に対してお金を払う文化が生まれています。というのも日本には Newspicks や Courrier Japon、日経新聞、その他にオンラインサロンなど様々な有料オンラインコンテンツサイトが出始めているからです。
しかし「台湾で有料のコンテンツサイトは?」と台湾人に尋ねると、恐らく一部のビジネス雑誌しか出てきません。これは台湾には有料コンテンツへのニーズがないためだと思います。しかし情報をタダで取得している人は情報がタダになっているメガニズムを理解するべきだと思っています。
あなたが取得する情報はあなたの都合のいい情報ばかり
Youtube で動画を見ていたら、ついつい Youtube がおすすめする次の動画を見てしまった経験はありませんか? Google は頭が良くてみなさんが過去に見た動画を AI が学習して他に興味がありそうな動画を勧めてくれます。
その他に LINE Today やインスタグラムも皆、ユーザーが過去に見た情報を基にあなたが好きなニュースや投稿を勧めてきます。筆者はモデルの森光と長谷川潤がすごく好きでインスタでフォローしていたら、いつの間にかインスタグラムは美女の写真ばかりを勧めるようになりました(苦笑)
今みなさんがニュースや情報を仕入れているLINE や Yahoo や Youtube やインスタグラムはプラットフォーマーと言われていて、彼らの収入源は広告です。広告が収入源の彼らはみなさんがプラットフォームに長くいればいるほど広告を出す機会が増えるので、みなさんの好きな情報ばかり出します。そうするとどうなるか?みなさんが見る情報はみなさんが好きな単一化して偏った情報になります。
検索は知らないと検索できない
こういうお話をすると、「確かに自分達に都合のいい情報ばかりに触れているかもしれないけど、Google で検索をすればどんな情報も出てくるじゃないか!」と言う方がいます。Google はとても優秀なので恐らくみなさんの検索ニーズに対して世界中から情報を拾ってくるでしょう。
しかし、考えてみてください。「検索」という行為は、検索する言葉を知らないとそもそも検索できません。
先月日本では「岸田ショック」と呼ばれる株価暴落が起きたのですが、岸田ショックのニュースを見なければ「岸田ショック」という言葉を検索する事はありません。
もしもプラットフォーマーと呼ばれる広告費で収入を得ているメディアでばかりニュースを見ていると、大衆受けするスポーツや芸能ゴシップニュースばかり目にして本当に重要な情報にアクセスできなくなります。
どんどん非公開になる情報
ではどうすればいいか?今までは SNS がみなさんの偏った情報に変化をもたらしてくれていました。SNS で気になった人をフォローし、その人が意外性のある情報を出せば、時に意外性のある情報に触れる事ができました。
しかし、台湾は日本と違い網紅※の規制が厳しくなく、SNS でフォローしている人の情報はもはや PR なのか本当なのかわかりません。また、日本では有名人は意見を言わないようになってきました。なぜか?
ネット上の誹謗中傷が多く、彼らが何か意見や情報を発信してもそれを批判する人がいて、発信しても何の得にもならないからです。そんな彼らは最近自分達で有料サイトを作り、有料サイトでのみ情報を発信するようになりました。
※網紅:動画配信を中心としたインフルエンサーの中国語表現。wanghong(ワンホン)と読む。
有料コンテンツにお金を払う事は自分から異なる情報に触れる環境に身を置く行為
このコラムで伝えたい事は「どこかの有料オンライン雑誌を買え」ではありません。タダの情報にはちゃんと裏があるということです。現代におけるタダの情報は主にプラットフォーマーから提供され、みなさんが触れる情報はどんどん自分好みになっていて、人々の偏見を増長しています。
日本ではオンラインサロンや有料コンテンツが台頭してきた事で、多様な情報に触れられる環境に身を置く人が増えてますが、台湾人は「情報はタダ」、「デジタルデータはタダ」という認識からイマイチ抜けられていない気がします。
近年は NFT ※により、デジタルデータの価値が再定義されつつあります。情報がタダで提供されている裏側やタダで取得しているデジタルデータの意味を理解しないと、台湾人は時代に乗り遅れる事になるかもしれません。
※Non-Fungible Token:非代替性トークン
佐藤峻 プロフィール
国際基督教大学教養学部教育学科卒。
國立政治大學國際經營管理英語修士(ビジネススクール)修了。
新卒後メーカー勤務を経て、外資系広告代理店WPP マーケティングコミュニケーションズ合同会社入社(現Wunderman Thompson Japan)
その後、台湾の日系広告代理店を経て、2017年にデジタルマーケティングの会社 applemintを台湾で起業。
外部からの出資0、人脈なし、営業経験なしから現在までに40社以上の台湾プロモーションを担当。
手がけた業種はBtoC、DtoC、BtoB、アパレル、コスメ、ホテル、ジュエリー、機械メーカーと多岐にわたる。

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