プロフェッショナルに聞くvol.4

プロフェッショナルに聞くvol.4

営業のキャリアを支援する

NPO法人セールスキャリア開発機構 理事長
宍戸 由希子 氏

セールスキャリア開発機構を立ち上げた経緯についてお聞かせください

私は大学卒業後、営業職に就きました。その当時の日本の営業職は今よりずっと「売れれば良い営業パーソン」、「売れなければダメな営業パーソン」と評価される風潮が強かったと思います。もちろん、売上を上げることは営業人材にとって重要なミッションではありますが、その評価が“数字のみ”ということに、その当時から違和感を覚えていました。実際、営業という仕事は本当に難しい仕事です。形態も人間関係中心のルート営業から新規開拓営業まで多岐に亘りますし、それぞれに求められる能力も様々です。また、営業を支援する体制が整っている会社もあれば、そうでない会社もあります。それにも関わらず、個人の営業力を証明する手段が”社内の営業成績以外にない”という状況に、漠然とした課題意識をもつようになりました。そういった背景から、営業人材の能力を証明できる新たな物差し(資格)をつくることができないかと考えるようになりました。具体的には、簿記2級、3級といった形で会計の能力を証明するように、営業2級、3級といった形で個人の営業力を証明するイメージを抱いたのです。そして、営業人材に向けてこういった資格認定や能力証明ができれば、営業人材と採用企業との間で生じる認識のズレや雇用のミスマッチを防ぐことができるかもしれないとも考えました。このような経緯を経て、営業人材のキャリア開発と能力開発、営業職の雇用機会の充実と安定をする支援するNPO法人セールスキャリア開発機構を設立する運びとなりました。

セールススキル検定構築までの道のりを教えてください

営業で一定の成績を残した後、研修講師の仕事などに従事しましたが、並行して営業に関する書籍を読み漁り、国内外のセミナーに参加し、徹底的に且つ猛烈に勉強しました。セールススキル検定構築のための学習に充てた費用だけで数百万円はかかったと思います。そのようにして営業人材のための能力開発体系をまとめそれに基づく資格試験制度を設計し、2004年に「セールススキル検定」として試験の運営を開始しました。有難いことに、セールススキル検定が雑誌やインターネットで取り上げられるようになり、また私自身も営業人材向けの本を数冊上梓させて頂いたことで、徐々にセールススキル検定が普及していくようになりました。開始当初は営業職に就く個人をターゲットにしていましたが、今では企業の方々が社内人材の育成や評価のために活用して下さっているケースが主流になっています。社内推奨資格にご指定いただいている場合もあります。
セールススキル検定は3級・2級・1級と分かれており、CBT(コンピュータテスト)と実技などを組み合わせた形で運営しています。今後は個人向けの資格だけではなく営業組織認定をつくることで、両者の発展に寄与していきたいと考えています。

宍戸さんの営業パーソンとしてのキャリアを教えてください

保険の営業職としてキャリアをスタートしました。当時、保険会社が新卒を中心とした女性の営業人材を大量に募集していたため、すんなり仕事に就くことができました。しかし、自ら望んで就いた仕事だったにもかかわらず、最初は営業成績も芳しくなく、戸惑い、自信を失うことの連続でした。
当時、個人向けの保険商品は「どの会社と契約しても商品自体はほとんど変わりがない」という状況でしたので、商談力の向上よりも人間関係の構築と維持が重視される営業活動にならざるを得ず、経験の浅い自分にとってはやりづらさを感じる局面が多々ありました。マネジメントも「頑張った人にはご褒美をあげる」といういわゆる“馬ニンジン”スタイルで、個人的な感覚においてもモチベーション理論に照らし合わせても、会社からのマネジメントによって仕事に対する意欲が高まることはありませんでした。また、それまでの人生で大きな挫折を経験してこなかったため、例えば“目の前で自分の名刺を破られる”など、営業職特有の厳しい経験をするたびに、衝撃を受けたり落胆したりしていました。
そのような状況から脱するきっかけとなったのは、”営業という仕事で結果を出すこと”と”人間としての成長”を結び付けて考えられるようになったことだと思います。
「営業という仕事で結果を残せたら、人間としてもきっと大いに成長できる」「この試練を乗り越えないと、将来、自分の生き方に納得がいかなくなるはず」という風に、人間的な成長の過程の中に営業職での成功がある、と考えるようになってから徐々に意識と行動が変わっていくようになりました。自信があってもなくてもとにかく行動するようになりましたし、”郷に入れば郷に従え”の精神で人間関係構築のため合コンや飲み会の企画など、当初あまり気が進まなかった保険営業としてのアプローチも、積極的に行いました。その甲斐あってか、徐々に成績が上がり、営業に対する苦手意識も克服するようになりました。そして大口受注などもできるようになり、会社では皆の前でお手本・模範とまで言われるようになりました。
元々、人間的に尊敬する先輩達が営業経験者だったことから営業職に憧れてその仕事に就いたのですが、改めて仕事に対する認識を整理しマインドセットを変えたことで、営業を通して自分自身が成長し、顧客にも喜びを届けることができるという営業職としての面白味を感じることができるようになったと思います。
その後、転職をして保険以外の商品・サービスの営業活動にも従事するようになりましたが、私にとって営業という仕事に向かう原動力は「相手が幸せになると確信をもてること」にあると思います。どんなに金銭的報酬を多く得られようとも、待遇が良かろうとも、相手が少しでも”満足する””幸せになる”ことが期待できなければ、高い熱量で仕事を継続することは難しいのです。
セールスやマーケティングの研究を続けていくと、近現代の営業手法やマーケティングのルーツは西洋の「Bible Sales」にあると考察することができます。つまり、営業手法やマーケティングの原点には、一軒一軒の家を訪問して聖書を薦めるキリスト教の伝道活動に通じるところがあるということです。伝道活動は「相手が幸せになれる」という確信をもち強い使命感をもって行うことですので、熱量が圧倒的に高いことは言うまでもありません。営業職に従事する人は、伝道活動ではなくても、こういった精神をもつことが非常に大切だと思います。

最後に営業の方へのメッセージをお願いいたします

営業の仕事で大変と思っていることがあるとすればそれが現在の課題になります。目の前の自分が抱える課題に対してそれを回避するのでなく乗り越える。乗り越えれば自分が変化し、また新たな可能性が開けてくるのです。自分が置かれている状況、課題を克服することに意味があるし、それがその後の自分の財産に必ずなると信じて頑張っていただきたいと思います。


宍戸由希子 氏 プロフィール 

人事コンサルティング会社経営。ヒューマンアセスメント専門ファームを経て現在、
NPO法人セールスキャリア開発機構理事長をつとめる。
企業や官公庁を対象に、人材育成、組織開発に関するコンサルティングに従事。キャリア、コーチング、リーダーシップに関する書籍、翻訳書、記事、講演会への登壇等、多数。

NPO法人セールスキャリア開発機構 https://sales-career.org/

著書

『部下を伸ばす技術~コーチング』 H&I、『セールスコーチングで最強の営業部を作る』すばる舎、
『営業でキャリアを作りなさい』生産性出版、『営業の歩き方』Amazon Kindle出版(Jason De Luca氏との共著)

翻訳書

『なりたい自分になる技術』 チャールズマンツ博士他著 生産性出版

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