Vol.17 熱が伝わらないブランドが海外で勝てるわけが無い

こんにちは!台湾のデジタルマーケティング会社であるapplemintの代表を務める佐藤です。
今日は、台湾で熱が伝わらないブランドが勝つのは難しいという話題についてお話したいと思います

人に熱を伝えることは難しいですよね。
筆者自身も、自分の台湾事業に対する情熱を他の人に伝えようと思っても、ほとんど伝わっていないと思います。

自分の情熱を他者へ伝えるためには、その人の時間を奪う必要があります。 例えば、筆者は現在、アパレルの歴史についての本を読んでいますが、アルマーニは実は医学部出身で、当時着心地が悪かったスーツを人体学に基づいて改善したそうです。

アルマーニの話を読んでいると、アルマーニの情熱が伝わってきて、アルマーニのスーツを買いたくなります(もう少し筆者に経済力があればという話ではありますが・・・)。

一般的に、商品やサービスの情熱が伝わると、人々はそれを買いたくなります。 残念ながら、台湾でうまくいっていない日系企業は、その“情熱”があまり伝わっていないように思われます。 「あなたにそう言われなくても、私たちは色々とやっています!」と怒られそうですが、今回は批判覚悟で、台湾で必要な情熱について筆者の考えを共有させていただきます。

広告で時間は中々奪えない

商品やサービスの熱は消費者の時間を奪うことで伝わります。その方法の1つとして広告が挙げられます。しかし広告で人の時間を奪うのはなかなか難しいものです。

広告で人の時間を奪うやり方は通常2つあります。

  1. セールやディスカウントの広告
  2. クリエイティブな広告

#2 の広告を選ぶ場合は、Nike レベルの広告を作ります。

でも Nike レベルの広告を作るには、”超”がつくほど有名なクリエイティブデザイン会社に対して、何千万円単位の制作費用を支払う必要があります。

大企業はそうしたことができるかもしれませんが、そうでない企業にはとても払える金額ではありません。

そうすると多くの企業は商品を値引きする #1のセール広告を選びます。しかし企業は本来ディスカウントをして商品を売りたいわけではないので、広告を使って割引以外に機能を訴求します。

しかしセール広告や機能を訴求した広告の効果が近年台湾ではかなり落ちているように思います。

この理由は、現代の消費者が失敗したくないという心理があることと関係していると考えられます。したがって、広告を投じる企業は、遅かれ早かれ魅力を伝える広告を作る必要があると思われます。

ただし冒頭でも書きましたが、人の時間を奪って商品に対する熱を伝える広告を作るのは至難の技です。あと、進出して間もないような企業はそもそも制作費を捻出できません。

なので、筆者は個人的に「熱を伝える」ことよりも少しハードルを下げて、「熱を知ってもらうきっかけを作る」ことに広告の目標を変更させることが良いのではと考えています。

これは何も広告から直接購入を狙うことが間違っていると言いいたいのではなく、直接購入を狙った広告は残しつつ、一部は目的を変えた方が良いということです。

広告代理店がこんなことを書くと、責任逃れにも聞こえますが、筆者がこの考えに至ったのには理由があります。

熱は通常非効率なやり方で伝わる

デジタルマーケティングをしてきて最近痛感するのが、実は最も熱が伝わるのは、”一見すると非効率な方法にあるのではないか”ということです。

例えば筆者の YouTube チャンネルは筆者の熱を伝える手段の一つですが、動画の視聴回数は少ないし、撮影時間は長いし、制作費用が結構かかるので超非効率な方法です。

それにも関わらず筆者の YouTube チャンネルを見て弊社へお問い合わせをする人は後を断ちません。

それは YouTube という媒体を通して、チャンネルの向こうにいるユーザーが筆者の顔を見て熱を感じるからなのではないかと考えられます。

ブログも同じです。完成までに結構な時間がかかるため、効率やコスパという観点からは結構悪いです。

しかし、applemint にお問い合わせをした人に話を聞くと、実に多くの人が筆者のブログを通じて筆者を知り、一部の人は筆者の熱を感じています。

applemint lab の活動もそうです。オフラインでメンバーに会い、彼ら/彼女達との会話を通じて筆者はコアファンを獲得出来ていると感じます。

では広告はどうでしょうか?インフルエンサーの投稿はどうでしょうか?

広告やインフルエンサーの紹介から商品やサービスの熱を感じられるでしょうか。

LOUIS VUITTON や BURBERRY といった有名ブランドは K-pop アイドルにブランドアンバサダーに任命していますが、有名ブランドは既に認知度が高く、当然資金力もあります。

彼らはコアファンを創出するステージから次のステージで勝負しています。

筆者は個人的に、広告やインフルエンサーといったプロモーションは、もう既に一定の人々に熱が伝わっている企業がする方が効果があると思っています。

台湾に進出したばかりの企業がインフルエンサーを起用する場合は、人選や宣伝方法を気をつけないと効果は限定的でしょう。仮に効果が良くてもその期間は短期的な場合がほとんどです。

その一方で、ブログや YouTube 動画は費用対効果は悪いです。こうした非効率的なやり方は人の労力がかかる割に短期的な効果はあまり期待できません。

しかしながらこうした非効率的なやり方の方が、コアファンを生み熱を発生させると筆者は考えます。

また、コアファンを生み出せないブランドは、今後台湾で生き残るのが難しいと思っています。コロナ禍の日本を生き残った飲食店でも、よく見るとコアファンがいることがあります。

台湾に進出して上手くいかなくなった日系企業も、どうやって売るかよりどうやって商品の熱を伝えてコアファンを創出するか考えてみてはいかがでしょうか?

台湾に進出する企業は改めてマーケティングのやり方が問われている気がします。


佐藤峻 プロフィール

国際基督教大学教養学部教育学科卒。

國立政治大學國際經營管理英語修士(ビジネススクール)修了。


新卒後メーカー勤務を経て、外資系広告代理店WPP マーケティングコミュニケーションズ合同会社入社(現Wunderman Thompson Japan)

その後、台湾の日系広告代理店を経て、2017年にデジタルマーケティングの会社 applemintを台湾で起業。

外部からの出資0、人脈なし、営業経験なしから現在までに40社以上の台湾プロモーションを担当。

手がけた業種はBtoC、DtoC、BtoB、アパレル、コスメ、ホテル、ジュエリー、機械メーカーと多岐にわたる。


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