Vol.24 SFAを取り巻くIT用語独自解説③ ERP連携その2

システム導入の支援をしていると、時折、お客様の担当者や責任者がITに対して過度な期待を持っており、実際に導入段階や運用段階になると、当初の期待と現実とのギャップを認識し、落胆してしまうことが起こります。
このようなことが起こる原因の一つとして、ITに関する用語がニュースや広告などに出てくる頻度が非常に多いため、その技術や手法に関する良い面だけを見て知識を十分持っているつもりになっていることが挙げられます。
「知識を持っているつもり」となってしまう原因として、各種メディアでの伝え方があるのではと考えています。メディアで伝える情報は、視聴者や読者に興味を持ってもらうこと、そして情報提供者であるスポンサーを満足させることが必要であるため、“成功物語”や“明るい未来”のような良い面のみを訴求し、成功の前提条件やそこに至るまでの過程などが省略されてしまうので、断片的になってしまいます。この一方的かつ断片的な情報がありふれている状況だと、どうしてもITに対して「知識を持っているつもり」になってしまうリスクがあります。
ERP連携解説の続き
前回は、SFAと関連する場合の「ERP連携」は、「販売管理システム連携」と同義で考えてもよいことを述べました。また、連携を検討する際には、ERPとのデータの粒度や範囲の違いを明確にすることが重要であることも触れました。今回は、その具体的なデータの粒度や範囲の違いについて、いくつか具体的な例を挙げます。
会社情報のデータ粒度・範囲の違い
コンサルティングを行っている中で、多くの方々がERPに会社情報があるため、SFAで会社情報を別途入力する必要がなく、ERPとの連携により自動化が実現できると考えている(個人的にはほぼ100%)状況です。このように、「ERP連携」という要件が自動化を促進するための重要な要素となっています。
ただし残念ながら上述の考えで成立するのは
① 取引済みの会社だけ管理していればよい
② 営業先と販売先と納入先が同じ
③ 営業管理で使う会社の属性情報がERPにすべて存在する
という場合にのみに限られます。
まず、①について詳しく見ていきます。ERPを販売管理システムとみなす前提で話を進めますが、販売管理システムには過去の取引実績がある会社情報が存在しますが、未取引の会社に関する情報は基本的には存在しません。そのため、新規顧客開拓を行わない場合や未取引の会社に関する商談報告や案件管理が不要な会社には適用できます。このような場合は、SFAの運用は必要ないという議論になるでしょう。
次に、②に関してですが、これは原料などを販売するメーカーに多く当てはまります。営業先は、その原料の導入意思決定をし、完成品を製造/販売する会社となります。一般的に、このような会社を営業組織では「エンドユーザー」と呼びます。一方、販売先は、エンドユーザーと取引のある商社であり、自社が原料を納入する先は、エンドユーザーのOEM工場などとなるケースがよくあります。販売管理システムでは、実績データのみを扱うため、マスタ情報としては販売先と納入先のみが存在します。そして、エンドユーザーはマスタには含まれず、受注データ内の備考欄などに予備的なメモが記載される程度のことが一般的です。
最後に、③についてです。販売管理システムでは会社マスタには住所や口座、取引相手の担当者など、受発注業務に必要な項目のみを管理していますが、SFAではそれらの項目は不要とされる一方で、施策立案や動向分析に必要な業界や会社規模などが必要とされます。
以上より、SFAで必要な情報でERPに存在しないものをおおまかにまとめると、以下のようになります。
・未取引の顧客情報
・営業先であるエンドユーザー情報
・営業管理に必要な項目(通称マーケティング項目)
したがって、これらの情報はSFA上でユーザが管理・維持する必要があります。つまり、会社情報に関しては、ERPとの会社情報連携だけで自動化が実現できるという期待は持たない方が良いと考えられます。会社情報連携は、次回解説する「受注情報の自動転記」のための必要要素と位置付けるべきです。
伊東 大輔 プロフィール
TRANSAGENTパートナー SFAコンサルタント
大学卒業後大手SFAメーカーのSE、導入コンサルタントとして従事し、200社以上のSFA導入支援コンサルティングに携わる。
その後日本国内シェアNo.1のグループウェアメーカーの中国現地法人にてSE統括兼マーケティング総監として、導入コンサルティング及び販促企画や営業組織づくりに注力し、中国進出日系ITメーカーとしては異例の導入企業1,000社突破達成に貢献した実績を持つ。
トランスエージェントに参画後はB to BマーケティングにおけるWebマーケティング(デジタルマーケティング)施策と営業行動との連動における諸問題に着目し、顧客企業に対して、その可視化と分析が実現できるSFA活用支援を行っている。

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