プロフェッショナルに聞くvol.7 B to B営業組織のためのSFA活用術
プロフェッショナルに聞くvol.7
トランスエージェント 伊東大輔
Q. B to B営業組織では、SFA導入が一般化されていますが、効果的に活用できている企業は少数です。この現状の要因は何でしょうか。
私は様々な企業に対してSFA活用支援を行ってきました。多くの企業はSFAを「経営判断のダッシュボード」として活用する目的で導入しますが、実際にはExcelやメールで行っていた業務をシステムに置き換えるに留まり、その潜在的な利益を引き出せていません。
その要因は多岐にわたりますが、共通して指摘されるのは、導入時に「業務効率向上」という方法を目的にすり替えてしまうからです。
SFA導入に際しては、関係者が高い視点から、どの営業の課題解決に取り組むかを深く考えることが求められます。
今回は、SFAを利用する上で奥深い問題である「顧客マスタ※」に焦点を当てて解説します。
※顧客マスタ:顧客に関する情報を一元管理するデータベース
Q. 顧客マスタは基本情報の保存で十分だと思いますが、何が奥深いのでしょうか?
顧客マスタとして扱う情報は、組織によって異なります。同じ会社内であっても、各部署、各担当で「顧客」の対象や範囲が異なることが多々あります。それにも関わらず、多くの組織がSFA導入時に、各自の「顧客」の違いを意識せずに、議論が進んでいきます。
このような状態で環境を構築し、いざ実データを使って試験運用を始めてみると、各自の認識の違いが顕在化し、当初の導入目的を果たすことを諦めてしまうといったことがよく見受けられます。
当初の導入目的を見失い、SFAが何のために使っているかわからない情報を入力するためだけの箱と化してしまうことは非常に残念だと感じます。 それだけ、「どの顧客情報を顧客マスタとして管理するか?」と組織で定義することは重要な検討事項であると考えています。
Q.どの定義から始めればよいのでしょうか。
まず、「取り扱う顧客データの範囲」について、組織の関係者間で定義することから始めます。逆にいえば、SFA導入準備の初期段階で定義できていれば、案件管理や商談報告書の設計など、その後の導入プロセスがより深く有意義なものになります。
Q.取り扱う顧客データの範囲とは、具体的に教えてください。
営業の方は、販売ターゲット対象外の会社でも顧客を紹介してくれるかもしれないということで、顧客とみなすかもしれません。またカスタマーサービスの方は、取引中の会社のみを顧客として扱いますし、R&Dの方は、まだ見ぬ集合体を顧客として扱うことがあります。このように、個人ごとで顧客と捉える範囲が異なります。
顧客範囲の定義において、自社にとっての顧客を明確に理解することは非常に重要です。特に「自社と顧客との関係性」がその一環として注目されるべきポイントです。
以下に、自社との関係性からの顧客の定義の例を挙げてみます。
- 取引中の会社
- 既に商品やサービスの取引が行われている企業。これは最も直接的な顧客として捉えられる場合があります。
- 提案中の会社
- まだ取引が成立していないが、提案段階に進んでいる企業。潜在的な顧客であり、将来のビジネスチャンスを秘めています。
- 過去取引があった会社
- 過去に取引が成立したことがある企業。再取引の可能性があります。
- 過去提案したことがある会社
- 過去に提案が行われたが取引には至っていない企業。関心を持っているが契約締結には至っていない状態です。
- 名刺交換があった会社
- 接触があった企業。まだ具体的なビジネスの進展はないが、将来的にビジネスを行う可能性がある状態です。
- 未接触の会社
- まだ何も接触がない企業。これは新規開拓の対象であり、まだ潜在的な顧客として扱われている段階です。
- 販売ターゲット対象外の会社
- 販売対象とはならない企業。販売ターゲット外の企業でも協力関係や、顧客の紹介をはじめとした情報交換の対象という理由で顧客とみなされることがあるかもしれません。
異なる職種や業務領域に従事する人々が、それぞれの立場や目的に基づいて顧客を異なるように定義することは自然であり、顧客マスタの効果的な管理においては、これらの異なる観点を考慮することが必要です。
そして、SFA導入の際には、前述の「自社と顧客の関係性」においてどの状態に該当する企業をSFA上の顧客マスタで扱うのか?という点を明示することをお勧めします。
顧客マスタの構築においては、よく「一括取り込み機能があるか」といった方法論を最初に検討することが見られます。方法論は、方針さえ決まればすぐに決められることです。
例えば、SFA導入初期において取引中の会社との取引のみを管理すると決定した場合には、既存顧客のリストを用意する必要があると判断できます。管理する対象が取引中の顧客情報であれば、販売管理システムから基本情報を一括導入するなど、方法論は誰にでも簡単に考えることができます。
最も大切なことはSFA導入を通じて、どのような営業管理を実現したいのかを明確にすることです。その中で顧客を定義し、その定義に基づいた顧客マスタを定義することが非常に重要かつ難しい課題となります。
この顧客との関係性を定義しただけでは、顧客マスタの運用は完成というわけではないのですが、まず初めに考えることとして重要なことだと思います。