Vol 4. オジサンの感情と財布を動かすメロドラマからみる「不自然でも分かりやすい」ことの大事さ
あなたは最近、ドラマを観て泣いたことがありますか?
中国では2024年の春から、中高年男性が課金して視聴する短編ドラマが次々と登場しています。そのテーマは、刑事ものの人情劇でも、国家権力との戦いを描いた壮大な物語でも、歴史的偉人の伝記でもありません。
共通するテーマは、ひと言でいえば「昼メロ」。しかも、その設定は「そんなの現実にありえないでしょう…」と思わずツッコミたくなるほど極端なものばかりです。
例えば、8月末に公開された『闪婚老伴是豪门(スピード婚の相手は大富豪)』は、2か月足らずで視聴回数5億回を超え、課金収入は3,000万元(約6.3億円)に達しました。物語の主人公は、街角で弁当を売る58歳の離婚経験者の女性。彼女が、空調修理工を装った62歳の大富豪とひょんなことから見合いをし、スピード婚するというストーリーです。
ただし、若者向け恋愛ドラマでありがちな恋のライバルや、恋に悩む葛藤、劇的なプロポーズといった要素は一切ありません。
視聴者がハラハラするのは、意地の悪い親戚にお金をだまし取られるシーンや、息子が婿養子先の家族から貧乏だと罵倒されるシーンなど、むしろ「みじめ」な場面です。さらに、主人公がビンタされたり、棒で殴られて流血したりといった、過酷な展開が何度も登場します。
しかし、そのピンチに大富豪の夫が身分を明かし、権力や金銭を使って分かりやすい「悪役」を懲らしめていきます。さっきまで主人公をいじめていた悪役たちが、今度は夫の部下に逆に罵倒され、平伏して謝る…そんな「勧善懲悪」の展開が描かれるのです。
どことなく日本でヒットした「倍返しだ!」で知られるサラリーマンドラマに構図が似ています。必ずハッピーエンドが訪れるうえ、ギャグ漫画のような極端な設定と演出が相まって、視聴者は「スカッとする」爽快感を味わうことができます。
このメロドラマは1話あたり10分以下という短さで、続きが気になる場面で終わる構成になっています。さらに、1話9.9元(約210円)という手ごろな課金額もあり、多くの人が次のエピソードに課金してしまう状況を生み出しています。
また、集中して頭を使わなくても理解できる単純明快なストーリーと、感情を揺さぶる極端な演技が特徴です。こうした手法は、たとえば日本の「水戸黄門」にも見られるもので、時代や文化を超えて多くの人々の共感を得られる普遍的な手法なのかもしれません。
【この事例を日本でどう活かすか?】
あなたの営業トークは相手の頭だけでなく心に届いているか?
B to Bの営業においては、感情ではなく、ロジックとデータが購買意思決定の根拠となります。個人が独断で購買意思決定できるB to Cとは異なり、B to Bでは企業が抱える課題の解決につながる明確な導入理由が求められるためです。
しかし、購買プロセスの初期段階では、商談相手の感情が動くことで進展する場面もあります。相手に「もっと詳しく聞いてみたい」と感じてもらうためには、共感を呼ぶ分かりやすいストーリーが効果的です。営業パーソンが語る具体的な内容が、相手の感情に響き、組織としての課題設定や本格的な購買検討につながるきっかけを作ります。
「感動的な成功事例を短く語れないだろうか?」
製品やサービスを導入した顧客が、どのような困難を乗り越え、どんな成果を上げ、そしてどのように喜んでいるのかを、具体的かつ簡潔に伝えましょう。
特に、人間味のあるドラマを強調することが効果的です。商談相手が成功事例に登場する顧客の苦悩や成功体験に共感し、自分ごととして感じられるようになれば、通常は企業全体の利益を優先する購買担当者が、感情を揺さぶられたことで、あなたが紹介した製品・サービスを社内で後押しする存在になってくれる可能性が高まります。
野村義樹 プロフィール
愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者
1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。
毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。