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営業力強化につながるマーケティング思考 ~中国市場から得る実践的なインサイト~

Vol 6. 法廷よりも病室に通う弁護士

最近、中国で注目を集めている職業があります。それは、社会的地位の高さと高収入の象徴とされ、多くの人々の憧れを集めている弁護士です。
《中国統計年鉴 2024》によると、中国の弁護士数は2023年末時点で73万人に達し、この5年間で約31万人(70%以上)の増加を記録しました。弁護士資格は、安定した生活を保証するものとして人気を集め、多くの高学歴層が資格取得に集中しています。

しかし、弁護士の急増により、従来のように仕事が自動的に舞い込む状況は変化しています。特に経験が浅く、固定客を持たない弁護士にとって、顧客の獲得は深刻な課題です。一部の弁護士は「こんなはずではなかった」と落胆する一方で、意外な方法で活路を見出す人々もいます。それが「病室での営業活動」です。

彼らが病院に通うのは、既存の顧客を見舞うためではありません。交通事故や労災による損害賠償案件を獲得するため、病室を訪れ、直接営業を行っているのです。顧客がいなければ、どれほど高い弁論能力があってもその力を発揮する場が得られません。自ら顧客を見つけ出し、契約を成立させるためには、営業スキルが不可欠です。

病院での営業では、単なる「営業トーク」だけでなく、見込み客を見極める能力が求められます。ある弁護士は、病室に入った際、まず若い患者に声をかけることを優先していると言います。交通事故や労災による入院患者は若年層に多い傾向があるためです。一方、高齢者はその可能性が低いため後回しにすることが多いといいます。もちろん、案件を獲得できたとしても、即座に契約が成立するわけではありません。他の弁護士が提示した費用や提案内容を確認し、それを上回る条件をアピールしなければなりません。

病院では通常、病室での営業行為が禁止されています。そのため、弁護士たちは見舞客を装う形で自然に病室へ入り込む必要があります。
さらに、病室では患者や家族との対話に多くの時間を割けないため、限られた時間内で要点を簡潔に伝えるスキルが求められます。これはエレベーターピッチのように、短い時間で印象的な提案を行う形式と似ていますが、病室という特殊な環境に合わせた「病室ピッチ」とも言える手法です。

【この事例を日本でどう活かすか?】

見込み客がいる場所を探す重要性 

どれほど優れた商品やサービスでも、競争力や認知度が極めて高い場合を除き、顧客の方から「ぜひお願いしたい」と積極的にアプローチしてくれることは多くありません。そのため、「見込み客がいる場所を自ら探し出し、出向く」という基本的な営業姿勢が不可欠です。


さらに、展示会や訪問先企業など一般的なターゲットエリアに加え、新しい見込み客の居場所を開拓する視点が重要です。問い合わせがあった際には、顧客に「自社を知る前に、どのような情報源(オンラインサイトやイベントなど)を利用し、どのような行動(他社との比較や専門家への相談など)を取っていたか」をヒアリングすることで、さらなる営業機会を見出せるかもしれません。

常識を疑い、新たな方法を模索する 

「病院」という一見営業活動に不向きな場所で、弁護士が営業活動を行っている事実には驚きを感じます。飛び込み営業に抵抗を感じる弁護士もいる一方で、実際に病室を訪問し、患者に損害賠償の可能性を伝えることで感謝されるケースも少なくありません。
このように、従来の「常識」に縛られない柔軟な発想が、新たな営業手法を生むことにつながります。固定観念を見直し、新たな価値を創造することが営業活動の成功のカギになるのです。

野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者


1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。

毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。

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