Vol.77 「交渉学教科書」④ 分配型交渉について 安藤雅旺


交渉とは、ズルいものでも怖いものでもありません。限られた資源を奪い合うのではなく、むしろ大きく育てていく創造的なスキルです。自分と交渉相手、社会とをつなぎゆたかにする、これからの時代の交渉学を知ってみませんか。この番組では、対談形式で身近な事例から交渉の真の価値を皆さまにお伝えしていきます。
「交渉学教科書」④ 分配型交渉について 安藤雅旺
引き続き、「交渉学教科書 今を生きる術」(R.J.レビスキー, D.M.サンダーズ, J.W.ミントン 著/藤田忠 監訳 各務洋子, 熊田聖, 篠原美登里 訳)をもとに、交渉についてじっくりと皆さんと学んでいきます。今回のテーマは「分配型交渉」についてです。
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【TODAY’S TOPICS】
◎分配型交渉とは
交渉者同士が「限られた利益の取り分」を巡って争う、いわば「奪い合い」の構造を持つ交渉。情報は武器であり、自分の情報は可能な限り隠し、相手の情報は積極的に引き出すという姿勢が前提となる。交渉のイメージとしては、煙が立ち込めた部屋で男たちが激しくやりあうような、古典的で「戦い」的なニュアンスが強い。
◎分配型交渉に向き合うべき理由
・交渉の現場では実際、こうした「取り分を奪い合う」場面は少なくない。
・また、多くの交渉者がこの分配型の戦略・戦術を持ち込んでくる現実がある。
そのため、自分が好む・好まざるにかかわらず、分配型交渉を理解し、防衛の準備をしておく必要がある。
◎分配型交渉の注意点
・過度な競争姿勢は、相手からの印象を悪くし、逆効果になることがある。
・「倫理的にそんな手は使わないだろう」という思い込みは危険であり、現実には想定外の手法を取る交渉者も存在する。
・さらに、自分自身が無意識に相手を不快にさせるような戦術を使ってしまっている場合もある。分配型交渉の理解は、自己理解にもつながる。
◎交渉に必要な3つの点と代替案
1. 目標点:自分が望むゴール(理想的な着地点)
2. 出発点:交渉の際に最初に提示する値(初手)
3. 留保点:これ以上は譲れない限界ライン
4. SAFT:交渉が決裂した場合に取れる代替案(ソリューション・アウェイ・フロム・テーブル)
5. BATNA:代替案の中で最も良い選択肢(ベスト・オルターナティブ・トゥ・ア・ネゴシエイテッド・アグリーメント)
※「トレードオンの交渉学 #5」を参照
◎ZOPAと情報戦
交渉は「ZOPA(合意可能領域)」があるかどうかにかかっている。相手の留保点をどこまで読み取れるかが、交渉の勝敗を分ける。留保点や本音、弱みは基本的に相手には明かさず、一方で有利に働く事実は戦略的に伝える。交渉中の会話はしばしば「暗号化」され、質問に質問で返したり、曖昧な答えが増えることも。
◎相手の留保点を「変えさせる」ための3要素
1. 交渉が長引いた場合の損失の大きさ(長期化=損だと思えば譲歩してくる)
2. BATNAの強さ(他に良い選択肢がなければ、こちらとの交渉に価値を感じる)
3. 交渉の結果に対する評価(期待値が下がれば、留保点も下がる)
◎分配型交渉で用いられる4つの戦術
1. 相手にとっての「結果の価値」や「決裂時の損失」を見積もる
2. 自分の結果価値について、相手の印象を操作する
3. 相手に「この結果はそこまで重要ではない」と思わせるよう働きかける
4. 長期化・決裂の損失感を演出して、相手の判断を揺さぶる
お聞きいただきありがとうございました。
交渉学についてより詳しい内容をお知りになりたい方は、
「交渉アナリスト」のサイトをご覧ください。
◎伝える人:安藤雅旺(あんどうまさあき)・株式会社トランスエージェント代表取締役。NPO法人日本交渉協会代表理事。「仁の循環・合一の実現」を理念に、交渉力協働力向上支援事業、BtoB営業マーケティング支援事業などを展開している。
著書:『心理戦に負けない極意(共著)』PHP出版・『中国に入っては中国式交渉術に従え!(共著)』日刊工業新聞社・『交渉学ノススメ(監修)』生産性出版・『論語営業のすすめ』生産性出版
◎聞く人:星野良太・人まず株式会社代表。コピーライター・講師。声の対談メディアWorkTeller主催。
著書:「コロナ時代に、オンラインでコーチングをはじめてみた。」
【運営】
日本交渉学協会/高い交渉力を持ち社会に貢献できる人物を「交渉アナリスト」資格として認定する活動や、交渉力向上に役立つ情報発信、企業や大学、行政機関での交渉力普及のための研修コンテンツの提供などを実施。
【関連資格】
交渉アナリスト/MBAレベルの交渉学の知識と交渉技術を兼ね備えた、交渉の実践者を認定する資格。