Vol.10 あなたの会社は何のテーマパーク?

中国のゴールデンウィーク(5月1日~5日)に、各地の観光名所は人であふれ、「景色を見に行ったのか、人混みを見に行ったのか分からない」というネット上の書き込みを多数見かけました。その中で、特に注目を集めていたのが、テーマパークの人気ぶりでした。
上海ディズニーランドの予約チケットは連休特別料金が適用され、799元(約1万6000円)と、東京ディズニーランドの約1.5倍の価格設定となっていました。また上海ディズニーランドの平日通常価格の475元(約9500円)と比較すると約70%も高い価格設定にもかかわらず、連休前には予約チケットが完売しました。
テーマパーク人気の高まりを背景に、上海近郊では新たなテーマパークの建設が相次いでいます。2025年夏には中国初となる「レゴランド」が、2027年には「ハリー・ポッター」のテーマパークが開園予定です。ハリーポッターの開園予定地は、上海で初めて観覧車を作った錦江楽園という遊園地の跡地です。既に年間80万人まで集客が落ち込んでいた「錦江楽園」がハリーポッターに再開発されることで年間200万人の集客が見込まれています。筆者の地元近くにあった「としまえん」も94年の歴史を閉じた後はハリーポッターになりました。もう『遊園地』という言葉自体、あまり耳にしなくなりました。
従来の遊園地といえば、「高さ世界一」「速さ世界一」など、物理的なスペックを売りに集客をしていました。ただ、それは更新され続ける“数字”の競争でしかなく、いつかは抜かれる運命にあります。また絶叫マシンは、安全基準や人体の耐性にも限界があり、結果として同質化してしまいます。
一方、テーマパークが大事にすることは「世界一」でなく「世界観」です。新鮮さだけでなく、テーマパークが顧客に提供するのは“唯一無二の体験”であり、価格比較されにくく、何度も訪れたくなる理由となっています。
【この事例を日本でどう活かすか?】
BtoB営業では、「うちの製品は最速」「最軽量」「価格が業界最安」といった“スペック訴求”は非常に重要です。ただ、それらのポイントを売りに競合に勝てるのは、ほんの一握りの企業です。そうでない場合も価格競争に巻き込まれることが、ほとんどです。競争が激化する時代こそ、必要なのは「顧客に、自社にしか出せない共感を提供する」ことです。サービス・製品単体ではなく、その背後にある開発ストーリー、現場を支える人間関係、長期的なパートナーシップの提案などを組み合わせて、顧客が「何度もお金を払いたくなる理由」をぜひ考えてみてください。
また注意すべきは、各顧客によって、あなたの会社への見方が異なっている可能性があることです。今一度、既存顧客との関係性を“共感の接点”で見直してみると、どのような「テーマ」が支持されているのか、そのヒントが見えてくるはずです。
野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者
1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。
毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。