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営業力強化につながるマーケティング思考 ~中国市場から得る実践的なインサイト~

Vol.13 10分散髪が大盛況。コストカットが顧客の利便性につながる

「〇〇社でも人員削減があったらしいよ…」―そんな声が聞かれるほど、中国では景気の先行きが不透明になり、企業も消費者も節約志向を強めています。その流れは飲食や小売にとどまらず、サービス業にも及び、価格と効率を両立させた業態が台頭してきています。その象徴の一つが「快剪(kuai jian)」と呼ばれる日本でもお馴染みのクイックカット店です。

2024年には登録企業数が前年比約15%増加し、2025年7月時点で全国に5,190社が存在しています。通常の美容院では39〜200元(約800〜4,000円)が相場の中、快剪は10〜20元(約200〜400円)で、しかも施術時間は約10分。昼休みに立ち寄れる「タイパ(タイムパフォーマンス)」の高さが受けています。

指示される理由はコスパとタイパだけではありません。従来の美容院では、トリートメントやカラーなどのオプション販売や、高額な事前チャージ制が一般的です。一定額を前払いすれば割引を受けられますが、店舗倒産で未使用分が戻らないトラブルも少なくありません。快剪はこうした心理的負担を排除し、売り込みもなく、シンプルなサービス設計で利用者を増やしています。

百聞は一見に如かず、自身で体験してみようと訪れたのは、百貨店地下の6平米ほどの快剪店。支払いは事前にタッチパネルで完結し席に着きます。美容師の方に聞いてみると、なんと通常の美容室も経営しておりました。クイックカットも始めた理由として「単価は低くても、週末は100人以上をカットすることもあり、売上は大きく変わらない」とのこと。加盟店制度により、設備やスタッフ派遣のサポートも受けられ、休みたい時には他の人に任せることも可能だそうです。初期投資が少なく若い美容師の独立にも向いていると語ってくれました。もっと、いろいろと話を聞きたかったのですが、わずか6分でカットが終わってしまい、次の人も待っているため、しぶしぶ席を立ちました。

1人で営業しているため店内には切った髪が残り、快適さでは従来型に劣るものの肝心の髪型の仕上がりに不満はなく、「早く、安く」を求める層には十分であると受け入れられています。

一見、双方にメリットがあるように見えますが、この業界にも懸念はあります。競合が急増し、本来は「カット特化型」であるはずの業態において、シャンプー・カット・ブローを19.9元(約400円)とする店舗まで登場し、過剰な値下げ競争の兆しが見え始めています。中国では過去にも、シェアサイクル、モバイルバッテリー、電気自動車業界で激しい価格競争によって、品質低下と大量淘汰を招いた例もあり、同様のリスクが考えられます。

【日本のBtoB営業人にとっての洞察】

この事例から、日本のB to B営業人が学べることは次の3つです。「提供価値の“核”を明確にする」「時間価値の提案」「値下げ競争の罠を避ける」だと考えています。

  1. 提供価値の“核”を明確にする
    クイックカットが支持を集めたのは、従来の美容院が提供する付帯サービス(シャンプーや長時間接客)を敢えて省き、「安く・早く・必要十分な仕上がり」という中核の価値に集中したからです。自社商品やサービスでも、顧客が実際に評価している機能やサービスが何かを見極め、それ以外は思い切って省くことで、価格競争力やスピードを高められる可能性があります。
  2. 時間価値の提案
    クイックカットが昼休みにでも行けるという点で差別化したように、B to Bでも「納期短縮」「レスポンス速度」「手続きの簡略化」など、顧客の時間を節約する提案は高く評価されます。顧客は、あなたとだけ取引しているわけではありません。丁寧さに加えて「早さ」や「手間の少なさ」を重視する顧客が多いことも強く意識すると良いでしょう。
  3. 値下げ競争の罠を避ける
    中国の過去事例が示すように、過剰な低価格競争は利益を圧迫し、品質が顧客の期待を下回るリスクを招きます。低価格戦略を取る際には、原価構造や提供モデルを根本から見直し、持続可能な提供モデルを構築できるかどうかを精査することが不可欠です。

野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者


1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。

毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。

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