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論語営業の哲学 人間観・修養の在り方~論語営業のすすめ⑧

営業人.com代表 安藤 雅旺

論語営業の哲学 人間観・修養の在り方~論語営業のすすめ⑧

論語営業の哲学 (①人間観 陽明学・致良知 良知の発現)

論語営業を進める上で重要な考え方・哲学として、ここでは4つ紹介します。まず第一に陽明学の良知の発現があります。良知とは人間誰もが持っているもので、本来の自分自身が持っている素晴らしい可能性、自らの良心といった意味になります。王陽明はこれをいわゆる聖人賢人だけが持っているものとせず誰もが持っているものであり「人間が学問をする目的はこの良知の発現にあり」と述べています。

論語営業の目的である営業という仕事を通して小人である自分を君子に近づけるということは別の言い方をするとこの「良知を発現すること」と同じ意味になります。良知を発現することとは本来の自分自身の可能性を見出す、自らの良心の発揮になります。本来の自分自身というのは決して私欲に曇った浅瀬の自分ではなく、自分の根底に宿るもの、先ほどの例でいえば私の「米粒大のお役立ち意識」であり渋沢栄一が唱える「士魂」であります。王陽明は良知についてこう述べています。

「そもそも良知は道に他なりません。良知が人の心にそなわっているのは、決して聖賢にかぎられたことでなく、常人もひとしなみに同じなのであり、もし物欲にひきまわされ蔽われることがなく、ただ良知のままに思惟し行動していけば、その軌跡がそのまま道となるのです。ただ、常人は、物欲にひきまわされて蔽われることが多く、良知にしたがうことができないのに対し、先ほどの諸公らの場合は、生来の気質がすでに清明であり、おのずと物欲にひっぱられ蔽われることも少ないため、良知の発揮されることが自然多くなり、道にもほぼ合致しえたのです。学ぶ者は、良知にしたがうことを学ぶのみで、それでこそ学を知るというものです。この、学を知るとは、良知にしたがうことを学ぶ、ということを知ること、それにつきます」
(『伝習録』中巻 王陽明 溝口雄三訳) 

論語営業の目的は良知の発現とも言い換えられます。己自身と己の可能性を信じる、私欲に負けず、他者の不条理な縛りに惑わされず、本来の自己そのものである良知を見出し発現することが重要なことなのです。

・論語営業の哲学 (②修養の在り方 陽明学・知行合一)

二つ目は知行合一です。渋沢栄一は論語を学ぶ姿勢として知行合一を説きました。王陽明は知行合一についてこう述べています。

「私はかつて知は行の主意(きほん)、行は知の功夫(じつせん)、また知は行の始(もと)、行は知の成(じつげん)であると述べたことがあるがここを会得したときには、ただ知とさえいえばすでにそこには行が含まれており、行とだけいえばすでに知が含まれていることがわかる。古人が知を説きながら、その一方で別に行を説いたのには理由がある。それは世間にはわけもわからず気ままにことを行ない、思惟省察ということを全くわきまえぬ人がおり、こういう人はただ盲目的に行為するばかりであるため、どうしても知ということを説かなければこの人たちの行ないを正しくすることができなかった。一方また、ある種の人々は、抽象的な空想にひたりきって、現実に実行してみようともせず、ひたすら憶測や妄想に終始しているため、これらの人にはどうしても行というものを説かねば、その知が真の知になりえなかったからである。こういうことは、古人が人々の偏向や病弊を是正するためやむをえずしたことで、その本意さえ理解できれば、多言の要のないことなのだ」(『伝習録』上巻 王陽明 溝口雄三訳) 

わたしたち営業人はあくまで行動重視・実践中心の姿勢で学びを深める必要があります。いくらマーケティング理論や営業技法を知識として習得しても、それを実践しなければ何の意味もない、本当に知るということにならないということになります。「行動が伴って初めて本当の意味で知ったといえる」というスタンスに立って学んでいく必要があるのです。

論語を学ぶにしても論語読みの論語知らずになってはいけないといわれるのはまさにこのことです。


安藤 雅旺 プロフィール

株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事


二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。
2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、マネジメント・イノベーション支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、BtoB営業・マーケティング支援事業を展開している。


主な論文・著書
「中国進出日系企業の産業財市場における顧客インターフェイスの研究」
Strategy for Managing Customer Interface taken by Japanese B to B Marketers in China
~Effective Business Activities in Developing Customer-Supplier Relationship in China~
(立教大学大学院MBAプログラム2011年度優秀論文賞受賞)


『心理戦に負けない極意(共著)』(PHP研究所 2009)
『中国に入っては中国式交渉術に従え!(共著)』(日刊工業新聞社 2013)
『交渉学ノススメ(監修)』(生産性出版 2017)
『論語営業のすすめ』 (生産性出版 2021)
『论语和营业人』 (今日出版 2025)


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