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論語営業の哲学 オンリーワンの営業スタイルを確立する  ~論語営業のすすめ⑩

営業人.com代表 安藤 雅旺

論語営業の哲学 オンリーワンの営業スタイルを確立する  ~論語営業のすすめ⑩

論語営業の哲学 (④オンリーワンの営業スタイルを確立する 陽明学・精金の比喩)

営業では当然業績が重視されます。業績を向上させることを目的に日々努力します。しかしそのために多くのトップセールスのやり方を模倣してもうまくいくとは限りません。それは人はそれぞれに持って生まれた個性があり、才能も違うからです。重要な点は、他者から優れた面は学びつつも、自分らしく、オンリーワンの営業スタイルを追求し確立していくことなのです。他と比較して奮起することも大切ですが、最も重要なことは自分自身と向き合い、自己に挑戦し自己を磨いていくことだと思います。伝習録にこうあります。

純金たるゆえんは純度にこそあって重量になく、聖たるゆえんは天理に純一である点にこそあって才能にはない、のである。だからたとえ凡人にもせよ、もしすすんで学につき、その心を天理に純一ならしめたならば、それで立派に聖人なのだ。ちょうど、一両の金が万鎰(いつ)いつの金に対して、重量の上では大差があっても、純度が等しいという点では、何ら愧(は)じることがないのと同じことだ。
(『伝習録』上巻 王陽明 溝口雄三訳) 

この純金のたとえは営業でいえば自分らしいオンリーワンの営業を追求することと考えられます。誤解を恐れずにいえば、他者との業績の比較よりも自らの営業目標に焦点を当て、その目標に対する姿勢・行動に焦点を絞る、そして自分自身の目標を一つ一つクリアして営業スタイルを確立することを重視することが大切なのです。人には持って生まれた分があります。他人の業績との比較にこだわり自らを愧じるよりもむしろ自分の可能性を発揮しきれていない、自分自身に挑戦が足りないことを愧じるべきなのです。

人には『己れの為にする(自己の向上を志す)』(『論語』憲問第十四)心があってこそはじめて『己に克つ』(『論語』顔淵第十二)こともでき、己れに克つことができるからこそ己を(完)成す(る)(『中庸』ことができる)
『伝習録』上巻 王陽明 溝口雄三訳)

オンリーワンの営業を追求し確立するために、立ち向かうべきは自分自身であり、自分らしさを確立するには、自分自身に克つことが重要です。最大の敵は自分自身にあり、ということを常に考え挑んでいくことが重要です。

論語営業 仕事を上達させるための考え方

第2章の締めくくりとして、営業の仕事を上達させるためのヒントとなる章句を紹介いたします。陽明学でも伝習録の冒頭は下記から始まります。

学びて思わざれば則ち罔(くら)し。思うて学ばざれば則ち殆(あや)うし
(『論語』為政第二)
学んでも考えなければ、[ものごとは]はっきりしない。考えても学ばなければ、[独断におちいって]危険である。
(『論語』金谷治訳注 岩波文庫)

論語営業解釈: 
   営業やマーケティングについての学問を学んだとしても自分で考えることがなければ、自分のものにならない。自己流で営業やマーケティングについて考えても、原理原則や先哲の知恵を学んでいない人は唯我独尊になり危うい。

聖人の言を信ずことはもちろん結構なことだが、しかし、それを自己のうちに体現することこそが第一義でなくてはならない。いまきみが、自己のうちにかえりみて得心のいかねものがあるというなら、先人の旧説にとらわれていないで、何が至当なのか自分で追及してみなくてはいけない。
(『伝習録』上巻 溝口雄三訳)

本や優れた人など他からの学びと自分の頭でしっかり考え抜くことの両輪が大切である。ややもするとどちらかに偏りがちになります。学びて思うことを習慣化することが重要なのです。またそれと同時に常に学んだことを実践に結びつける姿勢と、そこから新たな考えを生み出す姿勢が重要なのです。

われわれが聖人から学ぶべきことは、人欲を去って天理を存すること以外にない。それは金を精錬して純度を高めようとするのと同じで、金の成分に問題が少なければ、精錬の手間もはぶけ、でき上がりも早いが、純度が低下するほどに精錬は困難なものになる。人の気質には清濁純雑の差があり、『中人以上』(『論語』雍也篇)の人があれば『中人以下』(『論語』雍也篇)の人もいる。道についても『生れながらにしてそれを知り、安んじてそれを行なう』(『中庸』)の人があれば,『学んでそれを知り利(つと)めてそれを行なう』(『中庸』)人もあり、またその下には、『人が一たびすれば己は百たびし、人が十たびすれば己は千たび』(『中庸』)せざるをえない人もいる。プロセスはさまざまだが、しかし最終的に『成就されたあかつきには、いっさいの差はなくなる』(『中庸』)のだ。
(『伝習録』上巻 王陽明 溝口雄三訳)

ここでは心の中にある天理と人欲について人欲を排除し天理を存すること、つまり良知の発現についてその到達の仕方を述べています。これを論語営業として考えると自分自身の営業としての理想や目標に到達するための道筋と考えることができます。営業は自分自身をよく理解しておく必要があります。自身の目標を達成するには何をすればよいのか、自分の強みは何か、弱みは何かなどについて深く考え理解する必要があります。人が一たびすれば己は百たびしなければ同等の成果が得られないような領域であれば、百たび行なえばよいのです。足が遅い自分が足のはやい人と同じ距離を走る目標を立てるのならその分時間をかければよいのです。そうすれば必ず到達できます。重要なことは目標達成に対する執念であり、自分を理解し、自分の力で目標を達成するために必要な努力をすることです。

「一棒一条痕 一掴一掌血」

先生がいう、「諸君はここで、必ず聖人になるんだという心をうち立ててもらいたい。(その志が)どの一瞬にも不断に『一杖打って一条の痕がのこり、一つのびんたをくらわせて掌(てのひら)ぶんのあざをつくる』ほどに、自己の身に切実であってこそ、はじめて私の話も耳にとどまり、一句一句を糧(かて)にすることができる。もし、ぼんやりだらりと日をすごすだけであれば、ちょうど、死肉がいくら打たれても痛癢を感じないのと同じで、結局、最後まで何も成就できない。
(『伝習録』下巻 王陽明 溝口雄三訳)

すべては1日1日の積み重ねにあります。1日1日を大切に集中してどれだけ全力を出すかにかかっています。やる気が出ない、だらだらしそうになった時にはこの「一棒一条痕 一掴一掌血」の言葉を思い出し奮起したいものです。


安藤 雅旺 プロフィール

株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事


二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。
2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、マネジメント・イノベーション支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、BtoB営業・マーケティング支援事業を展開している。


主な論文・著書
「中国進出日系企業の産業財市場における顧客インターフェイスの研究」
Strategy for Managing Customer Interface taken by Japanese B to B Marketers in China
~Effective Business Activities in Developing Customer-Supplier Relationship in China~
(立教大学大学院MBAプログラム2011年度優秀論文賞受賞)


『心理戦に負けない極意(共著)』(PHP研究所 2009)
『中国に入っては中国式交渉術に従え!(共著)』(日刊工業新聞社 2013)
『交渉学ノススメ(監修)』(生産性出版 2017)
『論語営業のすすめ』 (生産性出版 2021)
『论语和营业人』 (今日出版 2025)


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