Vol.110 奥村先生と交渉学② 交渉学に関する調査研究・その取り組みについて 奥村哲史

交渉とは、ズルいものでも怖いものでもありません。限られた資源を奪い合うのではなく、むしろ大きく育てていく創造的なスキルです。自分と交渉相手、社会とをつなぎゆたかにする、これからの時代の交渉学を知ってみませんか。この番組では、対談形式で身近な事例から交渉の真の価値を皆さまにお伝えしていきます。
Vol.110 奥村先生と交渉学② 交渉学に関する調査研究・その取り組みについて 奥村哲史
今回は、特定非営利活動法人 日本交渉協会 名誉理事の奥村哲史氏を引き続きお迎えし、交渉研究を専門領域に定めた理由、そして北米での実証研究と研究ネットワーク構築について伺います。リーダーシップ研究から「マネジャーの仕事=ネゴシエーション」への視座転換、ノースウェスタン大学ケロッグ校/DRRC(Dispute Resolution Research Center)を拠点にした日米比較の共同研究、トップジャーナル掲載に至るプロセス、さらに日本の大学で交渉学が標準科目化しにくい背景までをお話いただきます。
◎奥村哲史氏のご経歴
・特定非営利活動法人 日本交渉協会 名誉理事
・早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学:早稲田大学)
・滋賀大学経済学部教授から名古屋市立大学大学院経済学研究科、東京理科大学を経て、東洋大学教授を2025年3月定年退職。
・大学では経営学、経営組織論を担当。米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院フェロー(1994~2018)として交渉と紛争解決研究に従事。
・早稲田大学大学院政治学研究科(2003~2019)、神戸大学大学院経営管理研究科(2010~2019)の他、メルボルン大学経営大学院、フランスESSEC経営大学院、テンプル大学日本校企業教育部門、西セビリア大学大学院、レーゲンスブルク工科大学、ストラスブール大学などで交渉関連科目を担当。
・企業における実務研修多数。
<翻訳>
『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』(Lempereur & Colson, The First Move 白桃書房 2014)
『予測できた危機をなぜ防げなかったのか? 組織・リーダーが克服すべき3つの障壁』(Bazerman & Watkins, Predictable Surprises 東洋経済新報社 2011)
『影響力のマネジメント:リーダーのための実行の科学』(Pfeffer, Managing with Power 東洋経済新報社 2008)
『交渉力のプロフェッショナル:MBAで教える理論と実践』(Brett, Managing Globally ダイヤモンド社 2003)
『「話し合い」の技術:交渉と紛争解決のデザイン』(Ury, Brett, & Goldberg, Getting Disputes Resolved 白桃書房 2002)
『マネジャーのための交渉の認知心理学:戦略的思考の処方箋』(Bazerman & Neale 白桃書房 1997)
『マネジャーの仕事』(Mintzberg, The Nature of Managerial Work 白桃書房 1994)
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【TODAY’S TOPICS】
◎ なぜ専門を交渉研究にしたのか
・修士論文はリーダーシップ研究。歴史のある研究領域だが70年代末には「成熟=行き詰まり」でもあった。
・「マネジャーの仕事」の実態に焦点転換。ヘンリー・ミンツバーグの10役割のうち交渉者(Negotiator」)を重要視する視点に出会う。
・「マネジャーの仕事の要に交渉がある」という考え方に惹かれる。
・Googleなどの検索が登場する前の時代、図書館でカードをめくり、文献末のインデックスをたどって資料を探す日々。
・管理者行動論からの展開に活路を見いだし、文献を手繰って射程を拡げる。
◎ 関西での発表と師友ネットワーク
・滋賀大学着任後、日本経営学会関西部会で「ミンツバーグの役割モデルと交渉の認知心理学」を土台に研究発表。
・人脈のない関西でコメンテーターを面識のない神戸大の金井壽宏先生が快諾。のちに神戸大MBA「ネゴシエーション」担当へ発展。
◎ 北米での研究基盤をつくり、研究成果を残す
・ロータリー財団の支援で渡米。ノースウェスタン大学ケロッグ校/DRRCに籍を置き、実証研究を学ぶ。
・日米マネジャーの参加で交渉の文化差の比較実験:取引型の交渉演習で実施。事前・事後質問票と交渉プロセスの分析から比較。経営学の権威ある学術誌Academy of Management Journalに掲載。
・環境問題をめぐる協力行動の文化差:利害と協力のトレードオフに交渉がどう作用するか。Journal of Applied Psychologyに掲載。
・以後20余年、夏・冬・春の休暇を使いながら北米往還でデータ収集・分析・国際学会発表を継続。
◎ 日本の大学で交渉学が設置されにくい状況
・人材不足:教育も担当できる研究者が少なく、異動や定年で科目が止まる。
(例:慶應、早稲田、神戸大などでの設置と中断)。
・アカデミズム観の壁:「実務っぽい」「ハウツーに見える」と軽視されがちで、カリキュラム編成で既存のマインドセットのファカルティには認識されない。
・現在の拠点:一橋大国際戦略研究科など、ごく一部。実務界からの需要は高いが、既存の大学側の認識にギャップがある。
お聞きいただきありがとうございました。
交渉学についてより詳しい内容をお知りになりたい方は、
「交渉アナリスト」のサイトをご覧ください。
◎伝える人:安藤雅旺(あんどうまさあき)・株式会社トランスエージェント代表取締役。NPO法人日本交渉協会代表理事。「仁の循環・合一の実現」を理念に、交渉力協働力向上支援事業、BtoB営業マーケティング支援事業などを展開している。
著書:『心理戦に負けない極意(共著)』PHP出版・『中国に入っては中国式交渉術に従え!(共著)』日刊工業新聞社・『交渉学ノススメ(監修)』生産性出版・『論語営業のすすめ』生産性出版
◎聞く人:星野良太・人まず株式会社代表。コピーライター・講師。声の対談メディアWorkTeller主催。
著書:「コロナ時代に、オンラインでコーチングをはじめてみた。」
【運営】
日本交渉学協会/高い交渉力を持ち社会に貢献できる人物を「交渉アナリスト」資格として認定する活動や、交渉力向上に役立つ情報発信、企業や大学、行政機関での交渉力普及のための研修コンテンツの提供などを実施。
【関連資格】
交渉アナリスト/MBAレベルの交渉学の知識と交渉技術を兼ね備えた、交渉の実践者を認定する資格。





