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営業力強化につながるマーケティング思考 ~中国市場から得る実践的なインサイト~

Vol.17 2025年の中国を表す言葉「しなやかさ」の裏にある行動原理

2025年も残すところわずかとなりました。今回は、中国の言語専門誌《咬文嚼字》編集部が発表した「十大流行語」を手がかりに、日本で活躍するBtoB営業人にも通じる考え方を整理していきます。

それでは早速10個の言葉を見ていきましょう。

1、 韧性(レジリエンス)

外部からの衝撃を受けても折れず、回復しながら持続する「しなやかさ」を意味する言葉です。近年の米中対立やサプライチェーンの混乱を背景に、中国では「経済のレジリエンス」「製造業のレジリエンス」といった表現が頻繁に使われています。ここで重視されているのは、単に「元に戻る」ことではなく、形を変えながら生き残る力であるという点です。

2、 具身智能(エンボディドAI)

ChatGPTのように情報処理に特化したAIではなく、ロボットなどの物理的な身体を持ち、現場で動作するAIを指します。人型ロボットが代表例で、中国政府はこれを2025年の重点育成産業の一つに位置づけています。人手不足やコスト高といった構造的課題への現実的な解決策として、大きな期待が寄せられています。
また、自動運転技術が進展する自動車も、広義にはこの「具身智能」に含まれると捉えられています。

3、 苏超(江蘇省都市サッカーリーグ)

江蘇省で始まった市民参加型のサッカーリーグが大きな盛り上がりを見せ、全国へと広がりました。これは単なるスポーツの流行ではなく、地域文化・経済・市民参加を結びつけた成功例として注目されています。

4、 赛博对账(サイバー突き合わせ)

2025年初め、米国のTikTok規制をきっかけに、多くの米国ユーザーが中国SNSへ流入しました。そこで生まれたのが、日常生活や価値観を互いに発信・共有し、誤解や先入観を“照合する”ような交流です。この現象は「赛博对账(サイバー突き合わせ)」と呼ばれています。
国家間の対立構造とは切り離された形で、市民レベルのリアルな相互理解が進んだ点に、この言葉の特徴があります。

5、 数字游民(デジタルノマド)

固定の職場を持たず、ITを使って場所を選ばず働くという若者を中心に広がった働き方を指します。
中国でも急増しており、地方政府は彼らを呼び込むための拠点づくりを進めています。「一社・一都市に縛られない働き方」が、中国でも一般化しつつあることを示しています。

6、 谷子(オタクグッズ)

アニメやゲームの関連グッズを指す言葉で、若者を中心に一大市場を形成しています。一方で、Labubuに象徴されるように、熱狂的な消費が過度に膨らみ、バブル化するリスクも指摘されています。

7、预制○○(プレ製造○○)

もともとはプレ加工食品を指す言葉でしたが、効率やスピードが過度に求められる社会への違和感を背景に「標準化され、個性のない人やモノ」を皮肉る表現へと転じました。

例えば、
• 预制人(量産型人材)
• 预制内容(テンプレ量産コンテンツ)

といった使われ方が広がっています。

8、 活人感(人間らしさ)

AIや加工されたSNS投稿が溢れる中で、不完全であってもリアルな「人間味」を重視する感覚が広がっています。作り込まれた完璧さよりも、揺らぎや未完成さを含んだ表現に価値を見出そうとする動きです。中国でも「作り込まれすぎた完璧さ」への疲れが見え始めています。

9、「○○はベーシック、××はベーシックじゃない」

収入や条件は「ベーシック(普通)」である一方、行動や消費は「ベーシックではない」、そんな矛盾した状態を自嘲気味に表すネット表現です。理想と現実のギャップを笑いに変えながら受け止める、中国の若者の率直な感覚がにじみ出ています。

10、从从容容、游刃有余;匆匆忙忙、连滚带爬 (余裕のはずだったのに、気づけばドタバタと転げ回っている)

台湾発のフレーズが歌を通じて浸透し、理想と現実の落差を笑いに変える表現として中台双方で共有されました。思い描いていた姿と、実際の自分とのズレを否定せず、軽やかに受け止める感覚が、この言葉には表れています。

【BtoB営業人にとってのインサイト】

簡単な解説にとどめたため、9番や10番のように有名人のフレーズを起点に広まった言葉は、ややイメージがしづらかったかもしれません。ただ、それ以外の言葉を眺めていると、日本社会との共通点も少なくないと感じられるのではないでしょうか?

中国は、日本から見ていると
「一枚岩で」「強硬で」「頑なな国」
そんな印象を持たれがちです。

確かに、人口も多く、広大な国であるがゆえに、国家としての方針は明確に打ち出されます。そのため、外からは「強さ」ばかりが目立って見えます。

しかし、実際にその中で生活し、仕事をしている人たちは、驚くほど、柔軟です。

「周りに流されず、どう自分を貫くか」ではなく、「外部環境が変わったのであれば、自分たちも形を変えながら、生き残らなければならない」という意識が、非常に強く根付いています。

今年の流行語の筆頭にあげられた「韧性(レジリエンス)」には、私は中国ならではの「しなやかさ」や「したたかさ」を感じます。

私たちは営業活動をしていると、つい

「既存のお客様だから」
「既存の商品・サービスだから」
という理由で、考え方や動きを固定してしまいがちです。

しかし、変化とは必ずしも「全く新しい商品を売ること」を意味するわけではありません。

商品そのものや価格は変えられなくても、
・提案の切り口
・説明の順番
・相手の評価軸に合わせた言葉づかい
・導入後の関わり方
など、しなやかに変えられる部分は、実は数多く残されています。

大切なのは、選択の主導権は自らが持ち、「価格が高いから仕方ない」などと最初から諦めてしまわないことです。

そして、「同僚もそうしているから」「これまでそうだったから」といった慣性に身を任せるのではなく、環境の変化を見極めながら、必要に応じて判断や行動を更新していく姿勢が求められます。

中国では、企業経営も社会の動きも、変化の振れ幅が大きいと言われます。そこでは、立ち止まらずに方向を修正し続けること自体が、現実的な生存戦略になっています。

AIをはじめとした技術進化や市場環境変化が進む中で、数年前と同じ考え方や同じ行動、同僚や競合と同じ考え方や行動では、成果を出し続けることは難しくなっています。

だからこそ、2026年はテンプレートに頼るのではなく、自ら考え、状況に応じて形を変えながら、より「しなやかに」、そして「したたかに」営業に向き合っていくことが重要になるでしょう。


野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者


1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。

毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。

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