営業人.com代表 安藤 雅旺

あるタクシー運転手さんから学んだ営業のあり方

リーマンショック後の不況下、あるタクシー運転手さんと会話をしたときの話です。当時はタクシーに乗ると、どの運転手さんも口をそろえて、「不況でこの業界も大変ですよ」とよくおっしゃっていました。ところが、この運転手さんだけは違ったのです。

「不況で大変ですか?」の私の問いに、彼はこう答えました。「いいえ、まったく大変じゃないですよ。不況でもやり方次第で道は開けていくものですから」。私はその答えに興味をもち、もっと詳しくお話をうかがうことにしました。

その運転手さんはここ数年、好況・不況に関係なく手取り年収600万円をつねにキープしているとのことでした。タクシー運転手さんの収入は一般的に歩合制です。その年の売り上げによって、年収は変動していくものです。ところが、この運転手さんはつねに一定額を維持できているというのです。

「その秘訣は?」と問うと、運転手さんの答えはこうでした。

「私はこの業界で10年以上やってきた経験があるので、だいたいの人の流れがつかめているんですよ。『この時間に、あの辺りに行けば、だいたいこのくらいのお客さんはいるな』というのがだいたいわかる。なので、戦略を立てて、動く。それで、一定の数字を確保することができるんです」

ここまではよくあるノウハウです。営業の世界で生きている者にとっては目新しい手法ではないでしょう。私が彼を「すごい」と思ったのは、この先です。彼は続けてこう語ったのです。

「あと、秘訣といったら、ワンメーターのお客様も大切にする、ということでしょうか。なぜなら、ワンメーターのお客様は、新しいお客様に出会わせてくれることが多いからです。お客様が降車した後に長距離のお客様と出会えたことも何度かあります。タクシー運転手の中には、ワンメーターのお客様を嫌がる人もいますが、私はワンメーターのお客様に心から感謝しています」

私は、「これだ!」と思いました。戦略的に動きつつ、それと同時に、偶然に出会ったご縁というものを決してないがしろにしない。大切にする。

このタクシー運転手さんが不況知らずで仕事ができるのは、まさにこうした姿勢があってこそだと、強く感じました。計算や戦略だけでなく、一つ一つの偶然やご縁を大切にする。営業のあり方として大切なことの一つだと思います。 


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