Vol.26 「営業プロセス」
本コラムは営業経験が2年から5年程度のB to B営業パーソンを対象としています。時代とともに営業のやり方は変化しますが、営業の本質である「量×質」という成功法則は不変です。ここでは、営業力強化につながるパーソナルスキルについてお伝えします。
今回は、営業行動の質を高めることにつながる営業プロセスについてお伝えします。
営業プロセスの基本と重要性
営業行動の質は、適切なプロセスを踏むことで向上します。一般的な営業プロセスは以下の5段階で構成されています。
- 準備する
- 仕掛ける
- 引き出す
- 提案する
- 成約する
このプロセスを意識しながら経験を積むことで、営業スキルの質を向上させることが期待できます。しかし、質の向上だけでは十分ではありません。成功のためには量を多くこなすことも同時に必要となります。
なぜなら、営業の成功法則は「量×質」だからです。
優れた営業パーソンは、この「量×質」の法則を理解し、日々の活動に落とし込んでいます。質の高い営業活動を数多く行うことで、成功に近づくことができます。
この一般的な営業プロセスは受注までしか考慮されていないため、違和感を覚える方もいるかもしれません。なぜなら、B to Bの営業では、受注はゴールではなくスタートであり、そこから顧客に価値を提供し続け、成果を生み出す必要があるからです。また、私たち営業の役割はCo-creative Interface Builderとして、顧客とのインターフェースを司り、共創関係へと発展させることが求められます。最初の受注で取引関係が始まったら、さらに深耕開拓を進め、最終的には同志関係にまで発展させることを目指します。
そういった営業行動ができる営業プロセスとして、顧客創造(交渉)プロセスJINメソッドがあります。このメソッドは4つのプロセスと6つの詳細タスクから構成されています。
このプロセスによって、営業行動の質の向上が期待できます。また、業界によってプロセスが変わる場合もあると思います。そのため、このメソッドを参考に自社の製品・サービスの顧客の購買行動に合わせてプロセスを自分なりに調整することが肝要です。
「己を知り相手を知る」
顧客との商談に臨む前の準備段階です。まずは知ることから始めます。
「知る」は3つあります。
①己(自社)を知る
②己(自社)を相手に知ってもらう
③相手の状況を知る
筆者の問題意識は、時々、自社のことを十分に理解していないまま商談に臨む営業パーソンが見受けられることです。自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を自分の言葉で相手に説明できるレベルにまで理解しているか、自社製品・サービスの特徴、効用、差別化ポイントを的確に把握できているかという問いを立てながら己を知ることが大切です。
筆者自身も、自社のサービスについて差別化ポイントを誤解していることがありました。そのため、月に1回の代表との1 on 1ミーティングを通じて、自社サービスの理解が正しいかを確認し、指導を受けています。一方で、自社の根幹であるMVVの理解については、若いときに徹底的に学び、深く身につけました。
「掴む」
掴むとは、受注のために「勘所を掴む」ことです。成約につなげるためには、質の高い商談をすることが必要ですが、それに加えて売れる人に会うこと、売れるタイミングで提案することの3つが必要となります。そのため、商談においては、JINメソッドに掲げられている次の6つを掴む必要があります。
①顧客の現状を掴む
②顧客のあるべき姿を掴む
③顧客の問題・課題を掴む
④意思決定プロセス・キーパーソンを掴む
⑤キーパーソンの思いを掴む
⑥タイミングを掴む
筆者がまだ若いころ、ある顧客への提案について講師に相談した時のことです。講師から「お客様と握れていますか?」と聞かれ、筆者はその真意がわからないまま「はい」と答えました。すると講師は、「その会社の現場はどんな状況ですか?何を目指している中で、この研修を導入したいと考えてくれたのですか?」と質問を重ねてきました。筆者が答えられずにいると、「全然握れていないじゃないですか。その状況であれば、私も同行するので、次は提案ではなく改めてヒアリングをさせてもらいましょう」と指導されました。
講師の言う「握る」とは、営業が顧客のあるべき姿を理解し、我々営業と一緒に解決していきたいという思いを共有できているかということを指していたようです。
当時の筆者の営業方法は、紹介した研修内容に対して顧客が興味を持つと、その顧客が商談の場で話してくれる「こんな内容も加えてくれるといいな」という表層的なニーズを聞くだけでした。しかし、「勘所を掴む」とは、そういった方法論に関するニーズだけでなく、顧客の真のニーズを理解することを指します。この真のニーズは、JINメソッドで掲げている6つの要素を掴むことで初めて見えてくるのです。
「巻き込む」
勘所を掴んだうえで「ステークホルダーを巻き込む」段階に入ります。巻き込むとは1本にまとめること、合一の状態へ持ち込むことを指します。そのためには、①共通目標、②シナリオへの参画、③同志関係構築の3つが重要です。ここで重要なことは、顧客があるべき姿を実現するために自社を特定分野におけるパートナーとして認めてもらうことです。
パートナーとして認めてもらうためには、自社の課題解決力はとても重要ですが、それ以上に顧客から「この営業パーソンは私たちのことをよく理解し、本当に成功のために考えてくれている」と認めてもらうことが重要です。
もし顧客に自社の提案が響かなかった場合、自社の課題解決力に問題があったと考えるだけでなく、自身の営業行動についても振り返ることが肝要です。顧客のお役立ちを志し、その思いが顧客に伝わっていたか、関係性が十分に構築されていたかを考えることで、その後の営業行動の質が向上し、たとえ失注しても顧客との長期的な関係を築け、新たなチャンスが生まれる可能性が高まります。
「動かす」
最後に組織を動かす段階になります。ここでは、①予算化、②体制づくり、③支援者づくりの3つが重要となります。ここで詰めが甘くなってしまい、失注してしまうとここまでの努力が水の泡になってしまいます。
筆者は、昨年新規顧客に対する大きなプロジェクトの案件を失注しました。その前の年からかなり時間をかけて取り組んでいた案件でした。その要因として、先ほど挙げた3つ(予算化、体制づくり、支援者づくり)ができなかったことが挙げられます。顧客の代表(現地法人の社長)からは、「すぐにでも始めよう」と言っていただいたにもかかわらず、その後窓口担当者の人事異動や後任者がコロナの影響で着任できないなどの不運も重なり、最終的に失注してしまいました。
受注に向けての話し合いの場で、「組織の変更で少しバタバタしています。新しい窓口が決まったら連絡しますので」という一言を信じ、待ちの姿勢を取ってしまったことが失敗の大きな要因だったと思います。窓口担当者だけでなく、他のキーパーソンへも定期的に連絡を取るなど、組織を動かす支援者を作れていなかったことを大いに反省しています。
現在、改めてその会社へアプローチをしています。当時の提案プレゼンに同席していた5名のうち、代表も変わり1名を残して全員異動したため、再び0からの関係構築を行っています。前回の反省を踏まえ、様々な立場の方々と面談を重ねることで、より強固な関係性の構築を目指しています。
まとめ
本日は営業プロセスについて紹介しました。質の高い商談をするためにも、プロセスを意識することはとても重要です。また一方で我々営業パーソンは100%受注することは絶対にありえません。失注したときに、どのプロセスでつまずいてしまったのかを振り返り、営業行動を改善することで営業行動の質を向上させることができます。たゆまぬ実践と努力によって営業行動の質を高めることが肝要です。
筧 裕介 プロフィール
トランスエージェント上海 総経理
愛知県出身 信州大学卒業
大学卒業後役者となるため劇団ひまわりに入所。
その後は舞台を中心にドラマ、レポーター、イベントMCなど多岐にわたって活動をする。
09年トランスエージェントに参画し、同年7月末に上海赴任。
10年には営業人材適性診断「王牌」や営業人材向け勉強会「王牌商道会」を立ち上げ、中国日系企業の営業人材の採用・育成のサポートを開始する。
2014年に総経理に就任し、現在は産業材市場に特化したウェブマーケティング支援及び営業組織管理支援(SFA導入)まで事業領域を拡大し、中国進出日系企業に対してB to B営業・マーケティング支援事業を展開している。