Vol.30 コミュニケーションスキルの全体像

本コラムは営業経験が2年から5年程度のB to B営業パーソンを対象としています。時代とともに営業のやり方は変化しますが、営業の本質である「量×質」という成功法則は不変です。ここでは、営業力強化につながるパーソナルスキルについてお伝えします。
前回は「問題」と「課題」についてお伝えしましたが、今回は「コミュニケーションスキル」をテーマにお伝えします。
営業活動において、コミュニケーションは欠かせない要素です。筆者は営業として顧客とやり取りをする中で、コミュニケーションの難しさを何度も実感しました。そして、その難しさを意識することで少しずつ成長できたと感じています。
今回は、コミュニケーションスキルの全体像を示し、その重要性と難しさについて考えます。
コミュニケーションスキルの全体像
コミュニケーションスキルは、大きく分けて「言語コミュニケーション」と「非言語コミュニケーション」の2つに分類されます。この中で、言語コミュニケーションはさらに「話す」「聞く」「書く」「読む」の4つに分類されます。
- 話す: 明確かつ論理的に伝えるスキル
o 商品やサービスの特徴を説明するだけでなく、顧客の期待や感情に寄り添う話し方が求められます。 - 聞く: 相手の意図や感情を汲み取るスキル
o 表面的な言葉だけでなく、その裏にある本音や真意を理解することが求められます。能動的に質問を投げかけることで、相手の真意を深掘りします。 - 書く: 分かりやすく情報をまとめ、可視化するスキル
o 商談では話す・聞くだけで終わってしまうことが多いため、要点をまとめて書き起こすことで、顧客との認識齟齬を防ぐことができます。 - 読む:メールや文書などの情報を正しく理解するスキル
o 商談前の準備として、顧客のウェブサイトや提供資料を正確に分析し、次回商談でヒアリングすべき要点や提案の方向性を明確にします。
非言語コミュニケーションは、言葉以外の手段で自分の意図を伝えることと、相手の意図や感情を把握することの2つに分けられます。
- 自分の意図を伝える
o ジェスチャーや声のトーン: 話のポイントを強調し、相手の注意を引きます。プレゼン中に手の動きを使いながら話を進め、視覚的に強調します。
o 表情: 話している内容に感情を込め、真剣さや誠意を伝えます。顧客の課題に共感を示すため、適切なタイミングでうなずきや相槌を打ちます。 - 相手の意図や感情を把握する
o 表情や視線の観察: 相手が納得しているのか、不安を感じているのかを判断します。顧客が眉をひそめた場合、説明が不十分である可能性を考慮して補足します。
o 体の動きや姿勢の変化: 説明している内容に対して興味を失った顧客のサインを見逃さない。 話を聞いている時に顧客が時計を見たり、話している部分と違うところへ資料を読み飛ばしたりした場合、興味を失っている可能性があります。
コミュニケーションの難しさを意識することの重要性
筆者は、コミュニケーションの難しさを意識することで成長できたと考えています。筆者が考えるコミュニケーションが難しい理由は主に以下の3つが挙げられます。
- コンテクスト(文脈)の理解不足
営業パーソンと顧客は、キャリアをはじめ、背景が異なることが多くあります。双方に共通したコンテクストが形成されていないことが、商談において解釈のズレや誤解を生む原因となります。そのため、営業パーソンは文脈の違いを埋めるために、自分が発した言葉の定義を説明するなどして、丁寧に言語化をして認識合わせをする姿勢が重要です。o 例:営業管理システムの販売において、「営業効率の向上」という言葉を商談で使う場合に聞く人によっては複数の捉え方があります。「組織内の提案案件を全て可視化することで、取りこぼしを無くすこと」と捉える人もいれば、「システムを入れて営業外業務時間を短縮すること」と捉える人もいます。営業パーソンは複数の捉え方ができる言葉を使用する際には、自分がどの意味合いで話しているかということを丁寧に説明することが必要です。
- 言語化の限界
一方で、全ての事柄を丁寧に言語化して説明することも難しいということもあります。それは、営業パーソンが顧客に伝えるときもありますし、顧客が営業パーソンに伝えたいが、うまく言語化できないということもあります。後者の場合に営業パーソンは、顧客に寄り添い、必要に応じて質問をして整理をする姿勢が求められます。 - 非言語的要素の影響
非言語コミュニケーションを慎重に読み取り、言語での確認と組み合わせることで、より正確なコミュニケーションが可能になります。しかしながら、筆者は、論理よりも感情の方が強いタイプであるため、顧客が実際に発している言葉よりも、顧客の微妙な表情の変化などに過剰に反応して解釈してしまうことがあります。そこは注意が必要です。筆者が陥りがちな具体例として次のようなことが挙げられます。
o 温和な表情による誤解
顧客が特に自社のサービスに対して肯定的にも否定的なコメントをしていないにもかかわらず、その話し方が終始温和な表情だと、「とてもいい人だから、いろいろ紹介すれば導入してくれそう」と楽観的に解釈してしまう場合があります。
o 熟考しているしぐさの誤解
自社サービスのプレゼンテーションをしている最中に、顧客が腕を組んだり、目をつぶったりすると、「見込みがなさそうだ」と早合点して、プレゼン内容を端折ることがあります。ただ、その顧客が熟考する際にそのような態度をとるだけということもあります。そのような場合も、プレゼンテーションはいつも通り行う必要があります。筆者も、ある企業の初期訪問で、会社紹介をしている際に目をつぶられたので途中から「あぁ見込ないな・・・」と思っていましたが、顧客はしっかり聞いていて、その後の商談がスムーズに進んだということがありました。
顧客の非言語的サインを汲み取ることは大切ですが、それだけで結論を出さず、必ず言葉で確認を取ることが必要です。
コミュニケーションは非常に繊細であり、その難しさを理解した上で丁寧に向き合うことが、顧客との信頼関係を築く基盤となります。また、全体像を意識しながら商談に取り組むことで、経験の質を向上させ、より良い成果と自己成長を実現できると信じています。本コラムが皆様の営業活動に少しでも役立つことを願っています。
筧 裕介 プロフィール

トランスエージェント上海 総経理
愛知県出身 信州大学卒業
大学卒業後役者となるため劇団ひまわりに入所。
その後は舞台を中心にドラマ、レポーター、イベントMCなど多岐にわたって活動をする。
09年トランスエージェントに参画し、同年7月末に上海赴任。
10年には営業人材適性診断「王牌」や営業人材向け勉強会「王牌商道会」を立ち上げ、中国日系企業の営業人材の採用・育成のサポートを開始する。
2014年に総経理に就任し、現在は産業材市場に特化したウェブマーケティング支援及び営業組織管理支援(SFA導入)まで事業領域を拡大し、中国進出日系企業に対してB to B営業・マーケティング支援事業を展開している。