Vol 3. 高級自転車のヒットから考える「機能を減らして値上げ」
コロナ禍を機にアウトドアブームが拡大し、キャンプ、スケボー、クライミング、サイクリング、フリスビーなど新しく始める人が増えました。
フリスビーのように、SNSで一時的に注目を集めたものの、固定ファン層をつかめずに人気が落ち着いた例もあれば、クライミングやサイクリングのように長期的に支持され、定着したものもあります。
東京オリンピックで正式種目となったクライミングは、それまでマニア向けの趣味でしたが、人気に火が付き、SNSの小紅書(RED)での関連投稿数が2023年には65万件を超えました。クライミングジムの数も2023年には636軒まで増え、アメリカを上回り、現在も人気は高まり続けています。
一方でサイクリングが人気と聞いたときにあなたは、
「昔、テレビで大量の自転車に乗った人を見たことあるし、そもそも中国って自転車大国でしょ?今更、サイクリング?」
と思ったかもしれません。
あなたが、中国に詳しければ
「シェアサイクルが増え過ぎて、個人の自転車売上が落ちたのではないか?」
と思ったかもしれません。
今、中国で増えているのは上記のような移動手段としての自転車ではなく、趣味としての自転車です。カゴもない、泥よけもない2024年上半期のロードバイク取引額は前年比241%、サイクリングウェアの取引も227%と拡大しました。
平均単価もギアがあがっています。GIANTなど台湾ブランドのサイクリング自転車は3,000元(約6万円)程度、TREKやSpecializedといった海外ブランドは30,000元(約60万円)から、中には127,800元(約256万円)という超高級モデルもショッピングモールの店舗で販売されています。
他のアウトドアと比べて人気が続いているのは、場所の制約がない、初心者のハードルが低いなど気軽に始められるという理由もあります。ただ、ビジネスとしてのサイクリング市場の伸びは、「追及する(ハマる)深さがあること」が大きいと思います。
サイクリングにはタイムを競う競技性もあれば、太陽や風を感じリラックスする楽しみ方もあります。
ロードバイクは、タイヤやハンドル、フレームなどのパーツを個別に購入し、自分で組み立てることができ、ヘルメットやサイクルウェアなどの装備も豊富に揃っています。こだわりを反映させるために時間やお金をかけ、仲間と語り合うことも『サイクリング』の楽しみの一部です。中高年のロードバイク愛好者にはクルマ好きも多いようですが、ロードバイクは比較的高価とはいえ、クルマの改造と比べると手軽です。景気が低迷するなかでも客単価が上がっているのは、サイクリングの魅力が増していることに加え、費用のかかる趣味から比較的安価なサイクリングにシフトするユーザーが増えている可能性もあります。
【この事例を日本でどう活かすか?】
機能を絞って値段を上げられないか?
ロードバイクは高価でありながら、販売時点ではカゴや泥除け、さらにはペダルさえ付属していません。しかし、その代わりに軽量でスピード性能に優れ、シェアサイクルや通常の自転車とは一線を画す高い性能を持っています。
商品やサービスを開発する際、いろいろな使用場面を想定して、様々な機能を盛り込みたくなります。「家電の〇〇モードは使ったことがない」という経験があるように、全ての機能が活用されるわけではありません。
バルミューダの家電製品も、シンプルな機能ながら高価格帯で成功を収めています。
自社の商品やサービスも、機能を絞り込み、性能を向上させることで、価格の引き上げを図れないでしょうか。
営業としても、顧客が必要とする機能に絞って紹介し、性能の差別化をしっかりアピールすることで値下げ交渉に巻き込まれることを避ける戦略が有効です。
たとえば、『他社にはある〇〇機能はないですか?』と問われた際にも、『弊社の商品を自転車に例えるなら、ママチャリではなく、特定の機能に特化したロードバイクです』といった具合に、自信を持って性能の違いを伝えられると良いでしょう。
野村義樹 プロフィール
愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者
1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。
毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。