Vol 5. AIを選ぶ時代から、AIに選ばれる時代へ
近年、中国ではAI技術の急速な発展により、採用プロセスが大きく変化しています。それまで大手ネット企業で行われていたAIによる面接が2024年には国有大手銀行から地方銀行と、多くの金融機関までがAI面接システムを導入しました。このAI面接は、画像認識、音声認識、自然言語処理(NLP)などの技術を活用し、応募者の外見、表情、語調、コミュニケーション能力、感情表現力、さらには専門知識までを数値化して評価します。
例えば、あるシステムでは以下の項目が評価されます:
・チーム意識
・問題解決能力
・求職意欲
・職務適性
・安定性
・学習能力
・コミュニケーション能力
このようなシステムを活用することで、面接官の判断のばらつきを抑え、採用基準の一貫性を保つことが可能です。また、AI面接官は24時間稼働し、一日に2500件もの面接をこなせるため、人手不足の解消にも寄与しています。一方、求職者も「AI面接攻略法」や「AI面接サポートソフト」を使いAI面接に対する対策が進んでいます。たとえば、AI面接中に、音声や画像を認識しリアルタイムで質問に対する回答を提供するAIソフトウェアも出ています。もはや採用面接もAI対AIの戦いになっているようです。
企業側は、一次面接をAI面接で行い、内定までには対面面接を組み合わせて判断しています。AIに選ばれないと、人間の面談までたどり着かないというこのステップは、採用だけでなく、営業なども含め、その他のBtoBの面談領域についても活用が広がっていくと予想されています。
【この事例を日本でどう活かすか?】
AIを活用して営業プロセスを効率化する。
AI面接がプロセス効率化と精度向上を実現しているように、BtoBの営業プロセスにおいてもAIの導入が進んでいきます。
AIがお客様のところに訪問してくれるサービスは、まだありませんが、Web上で問い合わせのあった顧客に簡単なヒアリングをし、提案をするAIシステムを導入する企業は増えています。
大がかりなAIシステム整備への時間とお金の投資ができなかったとしても、営業部や営業パーソン個人としてAIを活用することも可能です。
ChatGPTなどの公開されているモデルで、営業アプローチ先の購買履歴や以前の商談内容を入力し(情報管理には十分にご注意ください)、営業面談前にAIとロープレをするという活用方法は、新人営業パーソンの育成方法としても非常にコスパの良い方法です。
「うちは専門性が高く、AI上には情報がないから向かない。」
「AIに教えられるような、簡単な営業はしていない」
といった考えをお持ちの方もいらっしゃると思います。ただAIの技術は急速に進歩しておりソフトバンクの孫さんは2024年10月「SoftBank World 2024」の講演で
「人間とAIがほぼ同一の知能レベルになるAGIが出るのは2、3年後、AGIのレベルを1万倍ぐらい超えた超知性をASIとすると、私はASIが10年以内に来ると思っています。」
と発表しています。
中国はAI開発を政府が強く支援しており、新しいチャレンジに関しても日本と比べて規制が寛容的な場合が見られます。中国で効果や安全性、そしてリスクが検証されたサービスが世界に広まっていくこともあります。今後、AIが営業プロセスにどのような影響を与えるのかを予測するためにも、中国やアメリカのAI商品状況には注目すると良いでしょう!
AIに選ばれる工夫をする
自社と同様に顧客もAIを使って発注先を選び比較します。Web検索の時代では検索後の1ページ目に上位表示されていれば問い合わせが入る可能性がありましたが、AI検索時代では最初の1社に選ばれないとお客様に認識されない可能性があります。
HPの作り方も現在は人間が見て、操作することに最適化させるためのデザインや構成が重視されています。今後、HPをみたり、操作したりするのはAIだということになれば、AIにとって自社の差別化ポイントを識別しやすいようなHP構成・内容に最適化していく必要があります。
野村義樹 プロフィール
愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者
1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。
毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。