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営業力強化につながるマーケティング思考 ~中国市場から得る実践的なインサイト~

Vol 8. 空前のヒットとなったアニメ映画は、「誰の代弁者」だったのか?

爆竹や花火の喧騒が響く中国の春節、今年は中国映画界にも大きな花火が上がりました。明の時代の小説「封神演義」をもとに作られたアニメ映画「哪吒」の第二弾作品である「哪吒之魔童闹海」(以下、哪吒2)が公開から続々と記録を更新しています。公開10日目の2月6日には、それまで首位だった「長津湖」を抜き、中国映画歴代興行収入1位の座を奪取。さらに世界のアニメ映画ランキングでも「アナと雪の女王2」や「インサイド・ヘッド2」を抜き1位になりました。

3月3日の時点での興行収入は145億元(約2973億円)に迫り、映画全ジャンルの興行収入でも歴代7位まで上がってきています。日本の最高興行収入を誇る「鬼滅の刃無限列車編」が約404億円だということを考えると、その人気ぶりがよくわかりますね。

この爆発的成功要因について様々な分析がされています。

中国全土から130社以上、4000人超のスタッフが参加し5年で5億元(約105億円)を投じただけあって映像品質が良いことに加え、そのストーリーが注目されています。

SNS上ではストーリーに共感する大人が二回、三回と映画館に足を運ぶという投稿が溢れ、中国の外務省報道官さえ家族で2回目を楽しんだと投稿しました。

主人公である哪吒はその出自から誤解や偏見に晒され、素行が悪い時もあるものの、運命や逆境に屈せず立ち向かっていきます。

経済不安、職場での熾烈な競争、生活コスト上昇に喘ぐ大人たちは自分の苦しみを哪吒に重ねていたのかもしれません。SNSでは「アメリカの覇権に抗う国民感情の代弁者」なんて飛躍した投稿まで現れ、「我々、中国作品の世界でのランキングをあげるため何度も観に行こう!」と応援消費の声が上がり、単なる映画作品という枠を超えたブームを起こしました。

【この事例を日本でどう活かすか?】

あなたの商品・サービスは、誰の代弁者になれるのか?

今回紹介した映画「哪吒2」は、アニメという子供向けでありながら「大人が感じている不満の代弁者」という側面が共感を呼び、子供の間だけでなく、大人の間でも口コミが広がり社会現象にまでなりました。

「あなたの商品・サービスは、誰の代弁者になれるのか?」

BtoB営業は、BtoC営業と比較して1人の個人の感情を動かすだけでは成約につながりにくいと言われています。スペックや価格は稟議を通じて複数の人によって理性的に比較されることが多いため、感情やストーリーよりも数字こそが全てだと感じてしまうのも無理はありません。ただ、何かの課題を抱え困ったと感じているのは企業という集合体ではなく、個々の人間だということを軽視してはいけません。

コスト削減や納期短縮のプレッシャーを背負っている営業先の課長にとって、あなたの商品やサービスが『コストや納期管理に追われる自分の負担を減らしてくれる相棒』だと感じてもらえれば、価格交渉で対立する関係ではなく、お互いに応援し合える関係になれる可能性があります。

たとえその提案が採用されなかったとしても、自分たちの立場を代弁してくれた商品やサービスを「応援したい」と感じ、別の見込み先を紹介してもらえる可能性も高まります。
提案の過程で複数の役職者にプレゼンをする機会があるならば、相手に応じて毎回『誰の代弁者であるか』を意識的に調整することもできます。

「相手が代弁してほしいことは何か?」
「自社のサービス・商品で代弁できるのはどんな声なのか?」

ぜひ考えてみてください!

野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者


1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。

毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。

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