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営業力強化 パーソナルスキル

Vol.34 PREP話法とFABE話法の落とし穴

本コラムは営業経験が2年から5年程度のB to B営業パーソンを対象としています。時代とともに営業のやり方は変化しますが、営業の本質である「量×質」という成功法則は不変です。ここでは、営業力強化につながるパーソナルスキルについてお伝えします。

過去2回、応酬話法のテクニックとして、「端的に伝えるPREP話法」と「競合と比較した優位性を伝えるFABE話法」を紹介しました。どちらも非常に便利なテクニックである一方、「商談でフレームに沿って話しているのに、顧客の反応が悪い」といった経験をしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、便利なフレームワークである「PREP話法」と「FABE話法」の落とし穴について考えます。

学んだ内容を使っているはずなのに、期待した効果が得られていない場合、その原因は「フレームに沿って話すことが目的化」している可能性があります。フレームワークを学んだ直後は「正しく型に当てはめること」に意識を向けます。これ自体は学習の過程としては自然な流れですが、営業活動の目的である「顧客へのお役立ちにどうつながるのか」という問いを忘れてしまうと、期待する効果を得られず自己満足に終わってしまうリスクがあります。フレームに沿って話すことが目的化してしまうリスクについて事例をもとに考えたいと思います。

リスク①:自分勝手な論理を伝えてしまう(論理飛躍リスク)

ケース:システムKを販売する営業パーソンのPREP話法

システムKの特徴
・プログラミング知識不要で、誰でも簡単にシステム開発ができる
・クラウドツールなので、インターネット環境下でどこでも利用可能
・開発期間を短縮し、運用しながらシステムを拡張できる

商談中の顧客の発言
・現在、Excelと共有フォルダを活用して営業管理を実施
・営業管理システムの利便性を期待し、導入検討は何度もした
・導入後、営業の入力習慣定着に対する懸念点が払しょくされないため導入見送り

営業の応酬話法
P(結論):システムKであれば、営業の人がしっかり入力するシステム開発ができます。
R(理由):何故なら、システムKは手軽にシステム開発ができて導入期間が短いからです。
E(事例):●●社では、導入検討から3か月で運用開始をすることができました。
P(結論):システムKは、心配されている入力習慣化の問題を解決できます。

一見すると、PREPの形にはなっていますが、このトークでは顧客の「入力習慣が定着するのか」という懸念に対して、なぜシステムKが役立つのかということのつながりが弱く、納得感に欠けています。

このケースであれば、「最低限の内容からシステム化する」というスモールスタートが可能な点を理由にして、「最初から全面導入するのではなく、部分導入しその後機能拡張することで営業の入力習慣を定着させた事例」と合わせて訴求することができれば、顧客の懸念を払しょくすることに繋がる可能性があります。

リスク②:自身の思い込みでライバルを設定し、的外れな比較をしてしまう(的外れ比較リスク)

ケース:ベーカリー用プレミックスメーカーN社の営業パーソンのFABE話法

プレミックスについて
・レシピに合わせて小麦粉などの主原料に甘味料などの副原料を混ぜた商品
・飲食チェーン店では、プレミックス導入により調理オペレーションの簡素化や味の均質化を実現する
・メーカーは顧客のレシピ通りのプレミックスを提供するだけでなく、新商品開発(パンなどの最終製品)の提案をする

N社の特徴
・業界最高クラスの厳格な品質管理基準が実現する品質の高さが特徴

商談中の顧客の発言
・業務用プレミックスのことは知っているが、これまで導入したことはない
・コストパフォーマンスにおいて、現時点で魅力は感じない
・自社店舗の新規顧客を獲得するにはどうすればいいのか困っている

営業の応酬話法
F(特徴):弊社のプレミックスは業界最高レベルの品質基準で高品質かつ安定的な供給が可能です。
A(優位性):一般的な品質基準の工場で製造した会社と比べると不良率がかなり低いです。
B(便益):良品率が向上し、味の均質化につながります。
E(証拠):大手製パンメーカーの〇〇様では、元々利用されていたプレミックスメーカーから弊社に変更いただいたことで、良品率が大幅に上昇しました。

このトークは、商談中の顧客がプレミックスを利用したことがないのに対して、ライバルプレミックスメーカーと比べた品質優位性と、それに伴う良品率の向上を訴求しています。そのため、新規顧客獲得に悩む顧客にとっては納得感の欠けるトークになっています。 このケースであれば、「流行を考慮したプレミックスを提案できる」と伝え、原価が多少高くなっても新規顧客を獲得できる商品開発が可能であることを訴求することで納得感が高まります。単なるプレミックス業者ではなく、「ベーカリーの事業パートナー」という立場を目指すトークが、顧客にとってプレミックス導入の興味喚起につながります。

PREPやFABEといったフレームワークは、営業トークを整理する上で非常に有効です。しかし、今回紹介した2つのケースに共通する落とし穴は、「自社の特徴を伝えること」に意識が向きすぎ、肝心の顧客視点が抜け落ちてしまうことです。

筆者自身も、フレームワークを学んだ直後に陥っていたのが、「どうこの特徴をPREPで説明しようか?」「FABEで優位性をどう伝えようか?」と自分の話したいことを軸に話を組み立ててしまうことでした。結果として、顧客の問題意識に寄り添わず、顧客からすると「なんだか売り込み感が強いな」、「自分の話をしたいだけだな」と感じさせてしまうトークになっていました。 フレームワークは、顧客の自社製品への理解促進及び納得感を高めるための「型」であって、使うこと自体が目的になってはいけません。フレームワークに振り回されて、顧客視点を忘れてしまっては本末転倒です。

商談の場で、顧客の発言を受けて瞬時にフレームに落とし込み、的確なトークを展開することは非常に高度なスキルであり、簡単なことではありません。だからこそ、事前に「この顧客はどんな課題を抱えているか?」と仮説を複数用意し、その上で「自社のどの特徴を、顧客のどんな便益につながると伝えるべきか?」を整理しておくことが大切です。

今回紹介したケースのように、「この特徴を伝えたい」という自己都合の発想を出発点にしてしまうと、商談で顧客が発する大事なサインを見逃し、的外れな訴求をしてしまうリスクがあります。その結果、顧客から「この営業は自分の話を聞いていない」、「売り込み感が強い」と感じられてしまい、せっかく学んだフレームワークも逆効果になってしまいます。

だからこそ、テクニックを体得したら「顧客へのお役立ちを起点にする」ことを強く意識する必要があります。「顧客が何に困り、何を求めているのか」、「それを解決する手段として、自社の強みをどのように活かせるのか」という問題意識を持って準備を進め、商談で臨機応変に対応できるよう、応酬話法に磨きをかけていただきたいと思います。


筧 裕介 プロフィール

トランスエージェント上海 総経理

愛知県出身 信州大学卒業

大学卒業後役者となるため劇団ひまわりに入所。
その後は舞台を中心にドラマ、レポーター、イベントMCなど多岐にわたって活動をする。

09年トランスエージェントに参画し、同年7月末に上海赴任。
10年には営業人材適性診断「王牌」や営業人材向け勉強会「王牌商道会」を立ち上げ、中国日系企業の営業人材の採用・育成のサポートを開始する。

2014年に総経理に就任し、現在は産業材市場に特化したウェブマーケティング支援及び営業組織管理支援(SFA導入)まで事業領域を拡大し、中国進出日系企業に対してB to B営業・マーケティング支援事業を展開している。

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