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営業のあり方 BEING

七転八起の勁草営業人~論語営業のすすめ⑥

営業人.com代表 安藤 雅旺

七転八起の勁草営業人~論語営業のすすめ⑥

1. 初受注の思い出

私は新卒で株式会社ジェックに入社し、営業担当として仕事を始めました。最初は東京の指導部に所属し、指導を受けながら営業を実践します。決められた目標が個人に与えられますが、チーム全体で売上目標を達成しないと、営業部には配属にならないというシステムでした。そのためチームのメンバーに迷惑をかけないためにも必死で頑張った思い出があります。
新人研修を終えて、営業開始となります。私は東京有楽町地区の担当です。担当といっても顧客はすべてゼロから自分で開拓するのが前提です。毎日飛び込み営業をして担当者の名前を1日35件以上聞き出す(キーマンリサーチ)ことからスタートです。1日35件キーマンリサーチをするためには80件以上は飛び込みをしないとできません。朝から夕方までひたすら有楽町の高層ビルに飛び込みました。リストが600件になった段階で電話でのアプローチを行いアポイントメントを獲得していきます。そして必死で獲得したアポイントメントに対して商談を行い、受注を目指すのです。新人ですから当然簡単には受注できません。先輩に同行していただき、支援を受けながら、半年でようやく初受注ができました。
 私の初受注は帝国ホテルのグループ企業でした。渋沢栄一が設立に尽力した帝国ホテルのグループ企業で初受注ができたことに不思議なご縁を感じます。帝国ホテルから出向され当時グループ企業で常務をされていた春日輝男さんが採用してくださいました。この時のことは今でも鮮明に覚えています。春日さんは「私が採用を決めてあげた営業はほとんどが売れる営業だよ。君も必ず今後売れる営業になるよ」と言ってくださいました。とくに根拠はなかったと思いますが、当時の私にはこの言葉が支えにもなり、苦しい時を乗り越えるためのよき暗示になりました。春日輝男さんという名前も春の日に輝く男ということで勝手に私は「新人の私を応援してくださっている。ありがたい」と感じたのを覚えています。それから30年が経過しましたが、おかげで業績も一定レベル以上の成果をコンスタントに上げ続けることができました。最初の出会いのお客様の励ましの言葉が大きな力となったのです。

2. 人生意気に感ず

指導部を卒業して新人の私が配属されたのが名古屋営業所でした。当時の名古屋営業所には所長の葛西浩平さんと2名の優秀な先輩営業の方がいましたが、そこに私を含め3名の新人が配属になったのです。東京、大阪に比べて市場が小さく、新規取引も難易度が高いと言われる名古屋エリアに即戦力ではなく、新人を3人も迎えるというのは、経営判断としては難しいものだったと思います。所長の葛西さんは、未熟な私を根気よく指導してくださいました。毎日実施する日報対話では、傾聴を常として、指示命令ではなく、さかんに問いを投げかけて私の自主性を引き出していただきました。同時に常に私の強み(美点)に焦点を当てて粘り強く動機付けをしてくださいました。この時の対話は今思うとコーチングそのものだったと思います。常にゴールを見据え、現状とのギャップをどう乗り越えていくのか、私自身の考えを引き出していただき、否定をせず常に傾聴と承認をしていただいたことを覚えています。対話の後は常にモチベーションが上がるとともに、課題は自分自身の力で必ずなんとかしてみせるといった気概が溢れたことを覚えています。営業所として高い数字目標を達成することと、即戦力でない新人3人を明日のために育てることの両立は胆力がなければできない仕事だったと思います。当時は「私の可能性を信じてそこに期待をかけてくださっている」「所長として経営リスクを1人で背負い、肚をくくって対応いただいている」そんな姿勢を強く感じました。私は未熟者ながら人生意気に感ずで、何としてもいい仕事をして売上を上げて名古屋営業所を発展させたい、葛西所長の恩に少しでも報いたいと強く思い、日々の営業を全力で頑張ったことを覚えています。

3. 背水の陣

独立して3年目のことです。うまく仕事を作り出すことができず苦戦していましたが「交渉」というテーマを中核にして研修事業を構築しようと考え、IT業界にターゲットを絞り込み「交渉」研修を立ち上げました。独立当初は実績がないため、信用がなく、営業をしてもなかなか相手にされません。そのためまずは公開コースを開催して、各企業様から数名単位でお申し込みいただき、実績をつくろうと考えました。ありがたいことに最初に業界最大手の企業様がテストパイロットとして1名申し込みをしてくださいました。しかしその後が続かきません。赤字でも実施したいのですが、さすがに1名では研修になりません。開催するか否かの最終判断期日を設け、その時までに1名のままであれば潔くお客様に謝罪してキャンセルにすることを決めました。まさに背水の陣の状況です。せっかく有望なお客様を受注してテストでご参加いただけるというのに、この機会を自ら手放すことになる状況が迫っていました。ダメ元でリストを頼りに飛び込み営業も行い、粘り強く最後までベストを尽くしました。
結果としてキャンセルを覚悟した時、奇跡が起こりました。立て続けに数社から申し込みをいただいたのです。なぜ立て続けに受注できたのかは今でもわかりません。執念のポテンヒットというような感覚でした。形はともあれ結果として交渉研修を無事開催することができました。そしてこの時の公開コースの開催がきっかけとなり、(テストで参加申し込みをいただいていた)業界最大手の企業様ではインハウスでの導入が決まり、大きな受注となりました。また公開コースの実績をもとにIT企業が集まる大手協会にも営業をかけ、協会の会員企業様向けコースとして導入いただけることになりました。そして一気に業界の大手企業への新規開拓、取引拡大を実現することができたのです。このようなことがきっかけとなり、その後「交渉アナリスト資格講座」を立ち上げることができました。「交渉」に関する研修受講生はのべ3万人を超える規模となりました。すべてはこの背水の陣に追い込まれた際に必死でつかんだ執念のポテンヒットからつながったのです。


安藤 雅旺 プロフィール

株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事


二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。
2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、マネジメント・イノベーション支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、BtoB営業・マーケティング支援事業を展開している。


主な論文・著書
「中国進出日系企業の産業財市場における顧客インターフェイスの研究」
Strategy for Managing Customer Interface taken by Japanese B to B Marketers in China
~Effective Business Activities in Developing Customer-Supplier Relationship in China~
(立教大学大学院MBAプログラム2011年度優秀論文賞受賞)


『心理戦に負けない極意(共著)』(PHP研究所 2009)
『中国に入っては中国式交渉術に従え!(共著)』(日刊工業新聞社 2013)
『交渉学ノススメ(監修)』(生産性出版 2017)
『論語営業のすすめ』 (生産性出版 2021)
『论语和营业人』 (今日出版 2025)


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