Vol.15 スマホ会社が人気EVを製造。変革し続ける小米(Xiaomi)が市場を魅了する理由。
小米(Xiaomi)と聞くと何の商品を思い浮かべますか?元々はコストパフォーマンスが高いスマホで大きく成長した企業ですが、現在では電動自動車をつくり、スマホ用のチップも自社生産している会社です。
9月25日にCEO雷軍氏による年度講演と新商品発表会が行われました。テーマは「改変(TRANSFORM)」。スマートフォンメーカーからEVや自社チップ開発へと挑戦を続ける姿は、中国国内でも大きな話題となり、SNS上では「勇気をもらった」といったポジティブな声も数多く見られました。
しかし翌日、株価は2日間で8%下落。なぜ、感動的な講演が投資家心理を冷やしてしまったのでしょうか。
【やる気を刺激する熱い講演】
この講演は、今でも多くのヒーロー映画、少年漫画に使われる「ヒーローズジャーニー」という構成でした。簡単に説明すると「冒険への決断 → 仲間・師匠との出会い → 試練・危機 → 成功」という順番です。
具体的には、2020年、小米は世界500強入りし売上2000億元(約4.2兆円)を突破したものの、「技術がない」「組立工場にすぎない」との批判に「未来はない」と焦燥を抱えていました。
半年に及ぶ検討会議を経て、5年で1000億元(約2.1兆円)を投じ「スマホメーカーからハードテック企業」への転換を決断します。
創業メンバーに加え、新たな幹部人材を招き、自社チップ「玄戒O1」開発を推進。
かつての松果チップ失敗の記憶に加え、自動車事業との二重投資で社内に迷いも生まれましたが、2022年役員会で雷軍は「ここで放棄すれば二度と挑戦できない」と続行を主張。
その結果、玄戒O1は開発成功しXiaomi 15S Proに搭載、電気自動車のSU7 Ultraは権威あるドイツのサーキットでポルシェを抜き世界最速記録を樹立、電動自動車の2種目となるSUVのYU7は3分で20万台の予約を獲得するなど劇的な成果を実現しました。
さらに友人経営者が小米の講演をみて再起したと語り、小米を単なるコスパのよい商品を作る企業でなく「小米の挑戦が人の運命も変える」という形で終わります。
【市場の期待との差異】
しかし、小米株は翌日から2日間で8%下落。理由は「期待に届かなかった」から。
実は19時からの講演の当日は、新しい発表があるのではと株価が一時2.4%上昇していました。
ところが、自社チップは最新の主力機に採用されず従来通りクアルコム製、デザインも「iPhoneに似すぎ」と批判されます。また恒例の発売直後の販売台数データも公表されなかったため、売れ行き不振の憶測が広がり投資家心理を冷やしました。
言い換えると、皆が小米に対して期待し過ぎていた反動だったのです。
【日本のBtoB営業人にとっての洞察】
日本のB to B営業人として、この事例から学べると感じたのは次の3点です。
- 期待値マネジメントの重要性
少年漫画で次々と強敵が出てくるのは何故でしょう?それはヒーローに次々と期待が集まるから。顧客に約束した以上は、結果で裏付ける必要があります。期待値を高めすぎると、たとえ健闘しても「期待外れ」と受け取られることがあります。ただ期待をされなければ、そもそも面談の機会すら与えられません。顧客に期待させつつ、更にそれを少し超えた結果を出せるように期待値のマネジメントを心がけましょう。そして相手の期待値を知るためには直接、顧客に聞いてみるのが一番ですね。「御社(あなた)として、弊社(わたし)に、どのようなことを期待されていますか?」 - あなたが物語の主人公だと気づく
雷軍の講演は「ヒーローズジャーニー」という物語構成で語られていました。ヒーローが日常から冒険に踏み出し、仲間を得て試練に挑み、成果をつかみ変容する。これは、まさに営業活動にも当てはまる流れですよね。日々の商談や新規開拓を「物語の冒険」と捉え、うまくいかない時でも、自分自身を主人公としてチャレンジを楽しむ視点を持つことで、困難も前向きに乗り越えられるはずです。 - 挑戦の物語を周囲に伝え応援してもらう
ヒーローズジャーニーは神話から最新の漫画まで人を魅了する物語構成です。あなたも、このヒーローズジャーニーの構成を意識して自身の挑戦物語を(期待値マネジメントをしながら)段階的に語れば、上司や同僚、社外の営業先も含めてあなたのことを「応援したくなる」はずです。
「あなたのヒーロー物語」、ぜひ私にも応援させてください!!
野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者
1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。
毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。





