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営業力強化につながるマーケティング思考 ~中国市場から得る実践的なインサイト~

Vol 2. 中国超ヒットゲームから考える、コラボ商品を使ったマーケティングとは?

游戏科学(ゲームサイエンス)が2024年8月20日にリリースした「黒神話:悟空」(以下、「悟空」と表記)がヒット中です。販売4日目でダウンロード数が1,000万を超え、中国だけでなく世界のゲームランキングで売上1位を記録しました。(1か月後の9月20日時点で2,000万越え)

ほぼ同時期に発売されたソニーの対戦型ゲーム「CONCORD」は開発期間8年、開発予算150億円と「悟空」以上のリソースが投入されたにもかかわらず推定ダウンロード数が2.5万だったことを考えると「悟空」の圧倒的な成功が理解できるでしょう。

この神話級ともいえるヒットを達成した「悟空」のマーケティング手法は「プロダクトローンチ」と呼ばれます。商品の発売前から見込み客に対して情報を徐々に発信し、購買意欲を高め、発売と同時に売上を最大化する手法です。

「悟空」の開発スタートは6年前の2018年から。初めての予告動画が出されたのは、なんと4年前。当時から品質に期待が集まり動画視聴数は2,000万回を超え、翌年8月の予告続編も視聴数3,400万回超えと消費者の期待は高まるものの、発売時期はなかなか決まりませんでした。

発売日が正式に決まったのは2023年12月。最初の予告動画が出されてから3年以上経った後でした。8か月以上も先の発売日が決まっただけなのにファンの期待はさらに高まり、大きな反響を呼びました。

その後もプロモーションは続きます。ゲーム業界では初となる南京の郵便局とコラボし特別切手含むギフトボックスを発売。

「ゲーム発売前なのにコラボグッズ?」

「ゲーマーが切手?」

と思ったものの、結果として3万セットが5秒で完売。

これに留まらず、中国では店舗数、売上も超えた瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)とのコラボ飲料「黒神話騰雲アメリカン」をゲーム発売開始1日前に発売。指定セットの購入で限定グッズをプレゼントする企画は予想以上の人気で当日朝7時半には売り切れ。ゲーマーとコーヒーの相性は良いものの、男性がメインターゲットのキャンペーンとしては異例の人気に。これらの熱狂ぶりはメディアで取り上げられ、それまで、興味がなかった人までゲームを購入し、圧倒的な販売記録となりました。この販売実績が、またニュースとなり、注目が集まり売上が伸び、またニュースになるという雪だるま式で世界売上ランキング1位を数週間キープしました。9月の中秋節にはさらに老舗菓子メーカーと組んだ月餅ギフトが3万セット以上販売されましたが、これも生産や企画の準備期間を考えるとコラボが決まったのは明らかに発売前ですから、発売1か月後に再度話題になるよう狙ってプロモーションを企画していたことになります。

【この事例を日本でどう活かすか?】

プロダクトローンチを自社に活用できないか?

プロダクトローンチの期間としてよく聞くのは数週間から数か月間です。ただ「悟空」の例をみると、商品が完成するかなり前からプロモーションが始まっているのが分かります。

BtoB営業の観点で考えると、「今後、〇〇に役立つ商品を開発中です」といった初期段階の情報でも、お客様にお伝えすることで「それは興味があります」となる可能性があります。(※もちろん、情報漏洩リスクとそのメリットを十分に考慮してください。)

定期的に情報を提供しながらお客様の関心を徐々に高めることが可能であり、さらにお客様の関心分野を確認して、開発プロセスに反映させることもできます。

興味を持っている企業が複数社となれば社内や他の見込み候補にも「数社が既に検討状況です」と、商品開発前から商品の有用性を伝えることもできます。

業界の垣根を超えた連携(コラボ)で自社製品をプロモーションできないか?

今回、「悟空」が発売前にもかかわらず官業や大手とコラボできたのは2つの理由があります。1つ目の理由は動画視聴数など発売前から自社の影響力をコラボ先に伝えられる指標を獲得していたこと。2つ目の理由として、中国が世界に誇る「西遊記」という健全なIPであり協力企業にとってリスクが少なかったことが挙げられます。1つ目の理由はプロダクトローンチのところで説明したので割愛します。2つ目の理由について、業界が離れたところとコラボするときほど、商品の特性、効能だけでなく、その上流にあるコンセプト、価値観、ビジョンが合致するかが重要になってきます。郵便局という公共事業にとって戦闘シーン(暴力表現)が含まれるゲームとのコラボは、発売後の消費者の反応が否定的だった場合は利益だけでなく信用問題に発展するリスクがあります。ところが「西遊記というIPを現在の国内外の若者に改めて伝えていこう」という立場になれば同志になり得るわけです。

自社が普段から使っている広告媒体、代理店以外にも、同じターゲットにアプローチしたい他業種と利益だけでなく考え方でもコラボすることで、今までより多いシーンでタッチポイントを増やせれば自社のマーケティングにも有利ですので、ぜひ一度考えてみてください。

野村義樹 プロフィール

愛豊通信科技(上海)有限公司 副総経理
中国駐在員に人気のメルマガ「中カツ!通信」の配信者


1978年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。政府奨学金留学生として天津の南開大学に留学。日本帰国後コンサルティング会社に入社。台湾、深センの駐在を経て、カゴメ株式会社に転職し中国での食品事業、EC事業、食堂事業に携わる。その後、現職にてシニア向け事業の立ち上げ後、コールセンター、EC代理運営、BtoB営業支援を日系企業、欧米企業、中国企業向けに提供。

毎週、中国市場を面白く紹介する「中カツ!通信」を3,000名以上の登録者に配信。約20年に渡り中国の発展を見てきた経験と「現場」の情報は、記者やエコノミストも注目している。

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