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営業のあり方 BEING

論語営業の実践 ~ 顧客を創造する開拓力~ 論語営業マインド「仁」「誠」「礼」の醸成と実践 ステークホルダーを巻き込む 顧客創造(交渉)プロセス JINメソッド ~論語営業のすすめ⑯

営業人.com代表 安藤 雅旺

論語営業の実践 ~ 顧客を創造する開拓力~ 論語営業マインド「仁」「誠」「礼」の醸成と実践 ステークホルダーを巻き込む 顧客創造(交渉)プロセス JINメソッド ~論語営業のすすめ⑯

それでは具体的に顧客を創造するための営業の中身に入っていきたいと思います。全体像「顧客創造(交渉)プロセス JINメソッド」(図表4)を提示しながら説明していきます。

ステークホルダー インターフェイス

【図表4】 「顧客創造(交渉)プロセス JINメソッド」

顧客インターフェイスにおける関係の深化

顧客との関係は「無」関係→「知合」関係→「取引」関係→「同志」関係の四段階があります。新規開拓の場合「無」関係からスタートします。顧客にアプローチをして、自社を相手に知ってもらう、また同時に相手を知るための活動を行います。この段階が「知合」関係になります。そして次に顧客のニーズを満たすソリューションの提案がうまくできれば取引成立となり「取引」関係に移行します。そして製品・サービスを競争力のある市場価格でタイムリーに納品するといった「取引」関係の形を通して、信頼が形成されます。さらに顧客との関係が深化すると単なる価値交換ではなく、お互いの共通目標の実現を目的として、売り手買い手の立場を超えた協働的関係を構築する価値創造の形「同志」関係に移行する場合もあります。「同志」関係となれば、中長期の関係となり、顧客にとって自社は協働で問題解決を図るパートナーしての位置づけになります。営業としてはいかにして「無」関係から、「知合」関係を創出し、「取引」関係、「同志」関係に深化させていくのかが重要なカギとなります。

顧客創造(交渉)プロセスJINメソッド

顧客創造で重要なことは営業アプローチの「量」と「質」です。(図表5)量とはお役立ちのアプローチをできるだけ多くの対象に行うこと、質とは顧客とのインターフェイスにおける交渉(商談)の質を高めることです。つまりできるだけ多くのお役立ちの矢を放つ、そして同時にお役立ちの矢を放つ精度を高めることが重要です。(そうすれば必ず的を射る確率を上げることができます。量を増やすにはWebマーケティングや展示会、DM、TELアプローチなど様々な手段があります。この部分は営業個人の仕事を超えた組織としての営業戦略にも関わってきます。組織の営業戦略と連動し戦略的に進めていく必要があります。

顧客創造(交渉)プロセスは「質」の部分に該当します。「質」の領域は営業の腕次第といえます。ここではお役立ちの矢を放つ精度を高め的を射る確率を上げるための方策を考えていきたいと思います。
顧客創造(交渉)プロセスは、論語営業のマインドとして「仁」「誠」「礼」を中心に置き、「己を知り相手を知る」「掴む」「巻き込む」「動かす」の4つのアプローチで進めていきます。

論語営業マインドの「仁」についてはこれまで詳しく説明してきました。分かりやすく言えば「お役立ちの意識を常に営業活動の中心におく」「相手(顧客)の立場に立つ」ことです。これが論語営業の根幹であり、拠り所になります。自分の給料は誰からもらっているのでしょうか?会社からもらっている人は損益がマイナスの営業です。自分の給料や経費を自身の業績で賄えないため会社に負担してもらっているのです。本来営業は自分の給与は顧客からもらっていると考えるべきです。顧客からお役立ちの対価として会社が受け取り、そこから給料が支払われます。このことから考えても営業活動とは顧客へのお役立ちが前提であり、自分本位では成り立たないものなのです。だからこそ「仁」は営業の根幹であり、拠り所なのです。

次に「誠」(信)になります。誠実な対応を基本とする。顧客から信用され、信頼される存在を目指すということです。そのためには自身のマーケティング哲学を「誠」(信)、を軸にすることが重要です。私が新卒で入社しゼロから営業を教えていただいた会社である株式会社ジェックの創業者宮本義臣はマーケティングの考え方として顧客を賢者と捉えることの重要性を説きました。その考え方とは「条件さえ整えば、買い手の利益を最大にしようとする売り手の誠意は買い手に通じるものであり、買い手の利益(満足)を最大にすることが長期的にみて売り手の利益を最大にする道である。但し薄利多売主義は必ずしも買い手の利益を最大にする道ではない」というマーティング哲学です。彼は企業経営においても営業としても中長期に渡って成功していくためには、顧客を愚者ととらえたマーケティング哲学「売り手が買い手の利益を最大にしようと努めても、買い手は売り手の利益を最大にしようとはしない。つきつめれば、売り手と買い手の関係は喰うか喰われるかの関係であるから、要領のよい商売上手が得をすることになる」という考え方から抜け出すことの重要性を説いていました。

人にして信なくんば、其の可なることを知らざるなり。大車輗なく小車軏なくんば其れ何を以てかこれを行らんや。
(『論語』為政第二)
人として信義がなければ、うまくやっていけるはずがない。牛車に轅のはしの横木がなく馬車に轅のはしのくびき止めがないのでは、[牛馬をつなぐこともできない]一体どうやって動かせようか。(『論語』 金谷 治訳注 岩波書店)
論語営業解釈:  人としての信用がなければ、営業はできない。人としての信用が得られないのにどうして顧客を創造できようか。

誠なる者は物の終始なり。誠ならざれば物なし。(『中庸』 第十四章)
誠が身についた人は物ごとの始まりと終りを定め(てそれぞれを成り立たせ)る。誠によって[誠実]に行なうのでなければ、物ごとは[成り立たず]存在しないことになるのだ。(『大学・中庸』 金谷 治訳注 岩波書店)

渋沢栄一も下記の言葉を残しています。

信用は実に資本であって商売繁盛の根底である 渋沢栄一訓言集「実業と経済」
世に至誠ほど根底の深い威力のあるものはない。この至誠を吐露し、偽らず飾らざる自己の衷情を表顕して人に対するならば、なんでことさら法や術を用いるの必要があろう。如何に無口なところいわゆる交際下手な人でも、至誠をもって交われば、必ず相手に通ぜぬということはない。巧妙に饒舌っても、心に至誠を欠いての談話なら、相手をして軽薄と感ぜしむるほか、なんらの効果もないものである。ゆえに余は、交際の秘訣は誰一片の至誠に帰着するものであると言いたい。もし人に対した時、偽らず、飾らず自己の衷情を流露し、対座の瞬間において、まったく心を打ちこんでしまうことができるならば、それは百の交際術、千の社交法を用いたよりも、遥かに超絶した交際の結果を収得することができようと思う。(『渋沢百訓』渋沢栄一 角川書店)

そして「礼」になります。営業にとって「礼」とは「仁」と「誠」(信)を表現した形といえるものです。悪気はなくても「礼」を失すると「仁」や「誠」(信)が伝わらなくなります。また形だけの「礼」はそもそも意味がありません。あくまでも「仁」「誠」(信)を核とした「礼」であることが重要です。謙虚、感謝を基本とした行動、道理を弁えた行動をとることを心掛けることです。具体的な姿勢としては約束遵守、クイックレスポンスや当事者対応などを徹底することです
渋沢栄一と交流が深かったセイコーの創業者服部金太郎の有名な「礼」に関する話があります。

必ず約束を守る
横浜の外国商館は、新しい時計や珍しい時計を優先して服部時計店に卸したといわれています。当時の日本はまだ年に二回盆暮れに清算する江戸時代の商習慣が残っていましたが金太郎はどんな困難な時でも1ヶ月ごとの支払いの約束を守りました。これにより外国商館から信用を得ることができ、服部時計店は短期間でめざましい躍進をとげ、金太郎は輸入時計の卸や販売に集中していくことになります。

関東大震災
1923(大正12)年、創業以来の非常事態にみまわれます。関東大震災による火災で工場が全焼し、時計や自邸も燃え、大変な被害を受けます。すでに62歳となり、一度は落胆した金太郎でしたが、すぐさま精工舎の再開を宣言し、復興を開始しました。また、顧客から修理のため預かっていた時計が1500個余りありましたが、金太郎は顧客に迷惑をかけないという姿勢を貫き、同程度の新品をもって返済し、大きな話題となりました。
「セイコーミュージアム銀座 展示文より」

服部金太郎の「礼」を尽くした在り方は、とてつもなく偉大なことだと思います。こうしたことを真似することは難しいことかもしれません。しかし、我々営業人はこうした偉大な先哲の在り方に触れて学び、自身の営業哲学の中心に刻み込んでいくことはできます。そして、自分なりに行動で示していくことが重要であると考えています。

「仁」「誠」(信)「礼」を中心にして「己を知り相手を知る」「掴む」「巻き込む」「動かす」の四段階を進む

己を知り相手を知る

まずは「知る」から始めます。「知る」には3つあります。1つは「己(自社)を知る」2つ目は「己(自社)を相手に知ってもらう」3つ目は「相手の状況を知る」ことです。

「己(自社)を知る」ということは
①自社の経営理念(MVVミッション・ビジョン・バリュー)
②自社製品・サービス理解(特徴、効用、差別化)
③お役に立てるポイントを見出す(仮説形成)

の3つです。まずは自社や製品・サービスに自信と誇りをしっかりと持てる状態まで高めることが必要です。これまでの会社の実績を検証して、自身が担当する商品・サービス、もしくはターゲット顧客に対して、自分なりの様々なお役立ち仮説を構築することが求められます。

「己(自社)を相手に知ってもらう」ということは
①自社の特徴、強み、実績
②目指すべき方向性、お役立ちの志について

相手にしっかり理解してもらえるよう努力することです。商談を重ねても相手はこちらが考えているほど当方の説明した内容を覚えてくれていないものです。相手は多くの会社の営業と普段から商談をしています。その中で記憶に留めてもらえるようにするためにどうすればよいかをしっかりと考える必要があります。分かりやすく、インパクトがあり、信頼につながる説明などを自分で工夫し磨き続けていくことです。

「相手の状況を知る」ということは
①市場環境、業界動向
②会社基本情報、業績状況
③経営理念(MVVミッションビジョンバリュー)

などについて理解を深めることです。経営方針は最初に理解しておく必要があります。こうした情報はHPなどで調べることができます。相手の状況を知ることがお役立ちの糸口をつかむ第一歩になります。

人の己れを知らざることを患えず、人を知らざることを患う (『論語』学而第一)
人が自分を知ってくれないことを気にかけないで、人を知らないことに気をかけることだ。(『論語』 金谷 治訳注 岩波書店)
論語営業解釈:  顧客が自社を知らない、自分を覚えてくれていないことを憂うのではなく、まず自分が顧客を知らない顧客への理解が足りないことを反省すべきである。


安藤 雅旺 プロフィール

株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事


二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。
2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、マネジメント・イノベーション支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、BtoB営業・マーケティング支援事業を展開している。


主な論文・著書
「中国進出日系企業の産業財市場における顧客インターフェイスの研究」
Strategy for Managing Customer Interface taken by Japanese B to B Marketers in China
~Effective Business Activities in Developing Customer-Supplier Relationship in China~
(立教大学大学院MBAプログラム2011年度優秀論文賞受賞)


『心理戦に負けない極意(共著)』(PHP研究所 2009)
『中国に入っては中国式交渉術に従え!(共著)』(日刊工業新聞社 2013)
『交渉学ノススメ(監修)』(生産性出版 2017)
『論語営業のすすめ』 (生産性出版 2021)
『论语和营业人』 (今日出版 2025)


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