Vol.20 聞く力について考える④ 受け止める
本コラムは営業経験が2年から5年程度のB to B営業パーソンを対象にお送りするコラムです。時代の流れとともに営業のやり方は変わっていきますが、営業の本質である「量×質」という成功法則についてはいつの時代も変わりません。本コラムでは、営業力強化につながるパーソナルスキルについてお伝えしていきます。
第17回より聞く力についてお伝えをしております。前回は、聞く力プロセスの「心から聞く」の中でも、「顧客が話したいと思うような聞く姿勢を表現する」ことについて解説をしました。
復習となりますが、筆者が考える聞く力プロセスは次の3つです。
①心から聞く
②受け止める
③質問で深める
今回は、「受け止める」について解説をします。
「受け止める」におけるゴールは、顧客に「受け止めてくれた」と思われることです。言い換えれば、営業パーソンが商談で顧客の話を感情と内容の両面でできるだけ正しく理解し、そのことを顧客に示すということです。
「受け止める」行為は次の2つに分解されます。1つ目は「共感を示す」、2つ目は「現状を整理する」です。
まず、1つ目の「共感を示す」こととは、顧客が話しているときの感情を受け止めるということです。具体的には、前回解説した「シンパサイジング」のスキルを活用することになります。シンパサイジングについては、第19回をご参照ください。
Vol.19 聞く力について考える③ 顧客が話したいと思うような聞く姿勢を表現する
次に、2つ目の「現状を整理する」こととは、顧客が商談で話す内容の整理をすることを指します。現状を整理することは、次の2つのプロセスで行います。
①言葉の意味を理解し、顧客と認識を合わせる
②キーワードを書き出し、全体像を明らかにする
言葉の意味を理解し、顧客と認識を合わせる
1つ目の「言葉の意味を理解し、顧客と認識を合わせる」ことにおいて重要なポイントは、認識齟齬が起こりやすい言葉に気をつけることと、質問によって確認をすることです。
筆者がよく直面する顧客と認識齟齬が起こりやすい言葉は次のとおりです。
- マネージャー
組織によって職位に対する定義が異なり、それに伴い職位の名称が異なります。営業パーソン自身が所属する会社の職位定義を思い浮かべながら聞いてしまうと、認識齟齬が起こりやすいです。
- お客さん
「お客さん」という言葉には、エンドユーザー、代理店をはじめとした様々な意味が含まれることが多いです。商社においては、仕入先も「お客さん」と表現する場合があり、確認をしないと認識齟齬が起こりやすいです。
- 既存顧客
現在取引が有り・無しに関わらず、過去に一度でも成約したことがある顧客を既存顧客という場合もあれば、現在取引中の顧客のみを既存顧客という場合で異なり、認識齟齬が起こりやすいです。
上記はあくまでも筆者が気をつけている言葉であり、この記事をご覧になっている皆さんの業界ではまた違うかと思われます。商談で認識齟齬が起こりやすい言葉を洗い出し、商談ではその言葉に対して意識を向けて顧客の話を聞くようにする必要があります。
次に、質問によって確認することにおける重要なポイントは、「心構え」と「聞き方」です。心構えにおいて重要なことは、「確認することは顧客に対して失礼に当たらない」ということです。最も避けたいことは、顧客と認識が違うままで商談が進んでしまうことです。筆者は、若いときに「確認することは顧客に対して失礼に当たるのでは」と思いこんでおり、商談でわからないことがあっても、確認せずにわかった風な相槌を打っていました。当然、わからないことだらけで商談が進むので、「こんなことを聞いたら、さっきまで話しを聞いていたのかと顧客に思われるかもしれない」という意識が働いて質問ができず、顧客の本当の悩みを聞き出すことができないので、良い提案もできず業績が伸びないという状況でした。
聞き方において重要なことは、自分の言葉に言い換えて聞くことです。顧客が商談中に話した内容に対して、自分の認識を自分の言葉で伝え、その認識が正しいかどうかを顧客に確認します。これを行うことで、顧客に対して自分は話の内容をしっかり理解しているという表明になり、その後の商談でも更に深い話ができるようになります。
キーワードを書き出し、全体像を明らかにする
ここまで現状を整理するために言葉の意味を理解し、顧客と認識を合わせることについて説明しました。次に行うことは「キーワードを書き出し、全体像を明らかにする」ことです。ここでは、“簡易版ファシリテーショングラフィック”を活用します。
ファシリテーショングラフィックとは、ファシリテーションスキルの1つであり、模造紙やホワイトボードを使って 対話の中で交わされた重要な言葉や様子、更には瞬間瞬間のエネルギーを、その場で絵と文字で描き止め「見える形」にする ものを指します。このスキルは非常に奥深く、筆者はこれに関する書籍を何冊か読みましたが、商談で使用する範囲は一部になるため、“簡易版ファシリテーショングラフィック”としました。
筆者が商談で良く使用するのは、登場人物の整理です。筆者は営業・マーケティングに関する商材を販売していることもあり、商談中に出てくる登場人物は、自社と直接顧客とエンドユーザーが多いです。ここで示す下記に示すように、簡易的にそれぞれの登場人物の関係性を明らかにし、その上にキーワードを書き出すようにしています。
非常に簡単な図ではありますが、この作業を行うだけで顧客の全体像を把握することができるようになります。
本日は、聞く力プロセスにおける「受け止める」について解説しました。次回は、「質問で深める」について解説しますが、今回解説した「受け止める」ことができなければ、深めることはできません。今回の内容は、それくらい重要なポイントとなりますので、ぜひ商談では今回解説したことを意識して「受け止める」ことを行っていただけたらと思います。
今回の内容が聞く力に対して、苦手意識をお持ちの方に参考になれば幸いです。
筧 裕介 プロフィール
トランスエージェント上海 総経理
愛知県出身 信州大学卒業
大学卒業後役者となるため劇団ひまわりに入所。
その後は舞台を中心にドラマ、レポーター、イベントMCなど多岐にわたって活動をする。
09年トランスエージェントに参画し、同年7月末に上海赴任。
10年には営業人材適性診断「王牌」や営業人材向け勉強会「王牌商道会」を立ち上げ、中国日系企業の営業人材の採用・育成のサポートを開始する。
2014年に総経理に就任し、現在は産業材市場に特化したウェブマーケティング支援及び営業組織管理支援(SFA導入)まで事業領域を拡大し、中国進出日系企業に対してB to B営業・マーケティング支援事業を展開している。