Vol.21 聞く力について考える⑤ 質問で深める
本コラムは営業経験が2年から5年程度のB to B営業パーソンを対象にお送りするコラムです。時代の流れとともに営業のやり方は変わっていきますが、営業の本質である「量×質」という成功法則についてはいつの時代も変わりません。本コラムでは、営業力強化につながるパーソナルスキルについてお伝えしていきます。
第17回より聞く力についてお伝えをしております。前回は、聞く力プロセスの「受け止める」ことについて解説をしました。
復習となりますが、筆者が考える聞く力プロセスは次の3つです。
①心から聞く
②受け止める
③質問で深める
今回は、「質問で深める」について解説をします。
「質問で深める」ことのゴールは、「顧客が気づいていない問題を発見し、最も重要な課題の設定をすること」です。顧客と取り組むべき課題を設定し、お役に立てる提案につなげるべく、顧客の組織内における最重要課題を明確化することが質問で深めることのゴールとなります。
「質問で深める」ことは、2つに分解できます。1つ目は、「あるべき姿を言語化すること」、2つ目は「問題を発見すること」です。
まずは、「あるべき姿を言語化すること」について説明します。あるべき姿を言語化するためのスキルとして挙げられるのが、「オープン質問」です。オープン質問とは、答えが決まっていない質問を指します。(詳細は第5回を御覧ください。)具体的にはWhyを使った質問(深掘り質問)を繰り返して、あるべき姿を深掘りします。
ここで注意すべきは、深掘り質問が活用できるのは、ニーズがある顧客に対してのみです。顧客のニーズには顕在化しているニーズと潜在的ニーズの2つがあります。顕在化しているニーズとは、顧客が組織内の問題に対する解決方法がわかっている状態を指します。そして、潜在的ニーズとは、顧客が何らかの問題意識があるものの、それがまだ言語化できていない状態を指します。
ニーズが顕在化しているときには、予算や納期などの条件だけを聞けば良いため、潜在的ニーズを顕在化する際にのみ使うと考える方がいるかもしれません。しかし、筆者の経験からすると、「営業管理システムを導入したい」といった解決策までニーズが顕在化している顧客に対してこそ、あるべき姿を言語化する深掘り質問が重要であると考えています。何故なら、受注後のことも考えて、営業パーソンが顧客のあるべき姿をしっかり理解しておくことが重要だからです。また、ときには顧客があるべき姿を組織内で明確化できていないこともあります。社内で検討に検討を重ねている間に、目的と方法が逆転してしまうことがあるからです。そのようなときに、営業パーソンが顧客のあるべき姿を整理することで、顧客との深い関係構築に繋がります。
次に「問題を発見すること」についてです。これは次の2つに分けられます。1つ目は、「あるべき姿と現状のギャップから問題を列挙すること」です。2つ目は「選択式質問を活用して最も重要な問題に絞ること」です。
まず、1つ目の「あるべき姿と現状のギャップから問題を列挙すること」についてです。問題とは、あるべき姿と現状のギャップと定義されます。聞く力プロセスの「受け止める」段階で、顧客の現状が明らかになっているので、言語化されたあるべき姿からギャップを明らかにします。可能であれば、簡易版ファシリテーショングラフィックを活用して、問題点を全て洗い出します。このときに、あまり先入観にとらわれず挙げるようにしましょう。
次に、選択式質問を活用して最も重要な問題に絞ります。選択式質問とは、質問する人が選択肢を用意して相手に選んでもらう質問を指します。問題点を列挙するだけでは、解決につなげることができません。その中で最も重要な問題に絞る際に活用できるのが選択式質問です。問題解決をするということは、新たな取り組みにつながります。顧客にとっては大変なチャレンジになるため、商談の際には問題だけを列挙して何も取り組まないということになりかねません。顧客の問題解決に対する本気度を確認する意味でも、選択式質問を活用して、最重要だと思われる問題を1つに絞ってもらいます。逆に、この質問をすることで、顧客のその問題解決に対する優先順位が理解できるので、その案件の受注見込みを付けることにつながります。(受注見込みの付け方については、第1回をご覧ください。)最も重要な問題が見つけられれば、後はそれを解決するためにやるべきこと(=課題)を設定することになります。
ここまでお伝えしてきた聞く力プロセスを実行できれば、顧客との関係を深めながら一緒に取り組む課題を設定することができ、お役に立てる提案につなげられると思います。
今回の内容が聞く力に対して、苦手意識をお持ちの方に参考になれば幸いです。
筧 裕介 プロフィール
トランスエージェント上海 総経理
愛知県出身 信州大学卒業
大学卒業後役者となるため劇団ひまわりに入所。
その後は舞台を中心にドラマ、レポーター、イベントMCなど多岐にわたって活動をする。
09年トランスエージェントに参画し、同年7月末に上海赴任。
10年には営業人材適性診断「王牌」や営業人材向け勉強会「王牌商道会」を立ち上げ、中国日系企業の営業人材の採用・育成のサポートを開始する。
2014年に総経理に就任し、現在は産業材市場に特化したウェブマーケティング支援及び営業組織管理支援(SFA導入)まで事業領域を拡大し、中国進出日系企業に対してB to B営業・マーケティング支援事業を展開している。