vol.2 「奪い合いの交渉」での対応策
vol.2 「奪い合いの交渉」での対応策
前回は交渉の3類型、「奪い合い型の交渉」(分配型交渉)、「価値交換型の交渉」(統合型交渉)、「価値創造型の交渉」(統合型交渉)について触れた。今回はその中の「奪い合い型の交渉」についてさらに説明していく。
奪い合い型の交渉は、限られたパイを取り合う、つまり「勝つか負けるか」の交渉になる。互いの情報は公開せず、自己利益を最大化するため、はったりや脅しが戦術として用いられる。相手から譲歩を引き出すため、さまざまな計略が繰り出されることもある。この交渉で威力を発揮するのが〝脅し〟だ。
脅しには、相手を冷静に分析し弱点に焦点を当て攻撃を仕掛ける戦略的な脅し、力の差や怒りにまかせてどう喝する高圧的な脅し、自己の利益を越えて死なばもろともとなる心中的な脅しなどがある。
どんなケースでも、防衛のためには個別の最適な解を見出すのが交渉の要諦であるが、共通して有効といえるのは一刻も早く有力な「BATNA(バトナ)」を見出すことである。BATNAとは「Best Alternative to A Negotiated Agreement」の略で、交渉決裂時に採り得る代替案の中で最も有効な案を指す。
より強力なBATNAを見出すことができれば、脅しに屈する必要がなくなる。目の前の交渉相手に意識を集中することも重要だが、水面下で強いBATNAを用意すべく努力を重ねることも肝要だ。
また奪い合いの交渉では、計略が用いられることもある。計略とは孫子の兵法でいうところの「相手の目をくらまし、油断させ、かき乱し、分断し、急所をつく」といった性質のもの。こうした相手の術中にはめられないためには、以下の3つを意識することが重要だ。①相手のうそを見破る目を持ち、権謀術数、詐術に対する理解を深め、自らがそのわなに、陥らないようにする②防衛のための奇策を用意し、矛盾や不条理な状況下を打破する③交渉相手の人物としてのレベルを適切に見分け、相手がどのような人物か、行動や発言の背景から価値観や人間性をしっかり掴んでおく。
要するに、奪い合い型の交渉では常在戦場の強い危機意識を持って対応する必要がある。油断すればギリシア神話のトロイア王プリアモスのように、敵であるギリシア軍が潜む木馬を城内に招き入れ、瞬時に国を滅ぼされることになる恐れがあることを肝に命じてほしい。
安藤 雅旺 プロフィール
株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事
二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、BtoB営業・マーケティング支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、サステナビリティ経営支援事を展開している。
著書・翻訳
心理戦に負けない極意 中国に入っては中国式交渉術に従え 交渉学のススメ