交渉学ノススメvol.3

BATNAで交渉を有利に

前回は「奪い合い型の交渉」について説明をした。その中で重要なキーワードしてBATNA(バトナ)に触れた。今回はBATNAについて詳細に説明したい。前回も示したようにBATNAとは「Best Alternative to Negotiated Agreement」の略で、交渉決裂時に採り得る代替案の中で最も有効な案を指す。

物流業界を例に出すと荷主との運賃値上げ交渉では、強力なBATNAを持ち合わせていれば、交渉を有利に進めることができる。特に、コストを吸収するためやむを得ない値上げ交渉をする際には、荷主が一切応じない場合の取引中止も覚悟し交渉に挑む必要がある。その後ろ盾となるのがBATNAだ。また相手のBATNAも探っておく必要がある。荷主が他の有力運送会社へ切り替えできる体制が整っていれば、値上げ交渉は反感を買うだけで失敗に終わる可能性が高い。自社が荷主の業務に深く関わり、荷主にとってなくてはならない存在となっていれば、荷主のBATNAは弱まり、他社へ切り替えるためにかかるスイッチングコストを負担するよりも、交渉に合意する方向へ意識が向くはずだ。たとえ値上げが全て通らなくても、手積み・手降ろし・ピッキングなど付帯業務の有料化など、細部で協力体制を構築するためのより良い合意に至るはずだ。

BATNAはR・フィッシャー、W・ユーリー、B・パットンら米国の交渉学研究者たちが提唱した概念である。ユーリーは最近ではBATNAだけでなくインナーBATNAの重要性を説いている。インナーBATNAとは相手の出方や動向に関係なく、「何が起きようとも自分の心の奥底にある願望をかなえると無条件で自分自身に誓うこと」と述べている。「どのような結果であっても、解釈は自分でできる。非難ではなく自ら責任を負うことを覚悟する」「何があってもブレない自身をつくる」ことが重要だというのだ。

ヤマト運輸の中興の祖として多くの功績を残した小倉昌男氏が、創業当初から付き合いのある最大顧客の大手百貨店との配送契約を昭和53年に解除して、経営改革を進めた話は有名である。最大の顧客であっても数々の理不尽な扱いを受けながら取引を継続するのは、経営として誤りであると小倉氏は判断したためだ。ここには強いBATNAが用意されていた。背後で当時まったく新しいビジネスだった宅急便が急成長を遂げていたのである。同時に、経営者として人生をかけた覚悟、強力なインナーBATNAがそこにはあったと考えられる。


安藤 雅旺 プロフィール

株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 常務理事

二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)

株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。 2001年株式会社トランスエージェントを設立。

2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。

「仁の循環・合一の実現」を理念に、BtoB営業・マーケティング支援事業、 交渉力・協働力向上支援事業、サステナビリティ経営支援事を展開している。


著書・翻訳

  心理戦に負けない極意    中国に入っては中国式交渉術に従え     交渉学のススメ

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DX経営戦略・BtoBマーケティング関連
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