vol.5 価値交換型の交渉について
vol.5 価値交換型の交渉について
前回はZOPA(ゾーパ)について説明した。ZOPAが負の場合は交渉を合意にもちこめないため、交渉項目を増やし、奪い合い型交渉から価値交換型の交渉へ次元を上げることが必要である。パイの奪い合いを超え、両者の問題を解決し、互いのニーズを満たすために協働する方向へ次元を上げるのだ。価値交換型の交渉とは、交渉項目を限定せず、互いのニーズや、重要度の違いなど、相互の差を活用し、交渉項目を増やすことで戦略的な交換を実現し、双方が満足できる有益な合意を形成する交渉である。『GETTING TO YES』の著者であるウィリアム・ユーリーは「交渉役として最も大切なスキルを1つだけ挙げろと言われたら、私は相手の身になって考える能力と答える」と述べている。相手の立場に立って考え、相手のニーズを知り、互いのニーズを満たす交換を実現していくことが重要である。価値交換型交渉において重要な点は3つある。
第一に相手の求める価値は自分が求める価値と必ずイコールであるとは限らないということを理解すること。自分にとってさほど重要ではないものが相手にとっては非常に重要であるケースがあり、そうした点に着目して価値交換を実践すれば、保有する資源が少ない弱者の立場であっても交渉によって大きな価値を得る可能性があるのだ。つまり相互の価値の認識の差を活用することが価値交換型の交渉では非常に重要な点である。
第二は相手の求める価値を理解するために相手の立場に立ち、相手のニーズは何かを知ること、そして相手のニーズを満たす価値を自分が提供することができるか否かを考えることである。
第三に両者が満足できる合意を目指し互恵意識をベースにして情報をオープンにし、信頼関係を高め、互いの可能性を掘り出し、有意義な交換を実現させることである。相手の立場に立って考え、相手が求めるニーズに対して自らが提供できる価値を提案実行する。そしてそれが互いのニーズの充足や課題解決につながればパイそのものが大きくなる。これこそ有益な価値交換型の交渉といえる。そこには「仁」の精神がベースにある。
「仁」とは論語で説かれた徳目である。仁を示すくだりがある。「己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す」(論語 雍也第六)。こうした精神がベースになければ、継続的に価値を生み出す価値交換型の交渉は実現されないのだ。
安藤 雅旺 プロフィール
株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事
二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、BtoB営業・マーケティング支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、サステナビリティ経営支援事を展開している。
著書・翻訳
心理戦に負けない極意 中国に入っては中国式交渉術に従え 交渉学のススメ
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DX経営戦略・BtoBマーケティング関連
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株式会社トランスエージェント担当 安藤まで