vol.6 価値創造型の交渉について
vol.6 価値創造型の交渉について
前回は価値交換型の交渉について説明した。今回は価値創造型の交渉について説明したい。価値創造型の交渉とは互いの共通目的、共通目標を軸にして、双方が情報をオープンにして資源を持ち寄り協働し、問題解決に向けて新たな解決策を生み出す交渉である。価値創造型の交渉の重要な点は3つある。
第一に互いの目先のニーズを満たす、利益を得るといった低い次元でのWIN-WINの状態を超え、目指すべき目的、目標、志(大義)を共有し、その実現に向かって両者が協働するという点である。
第二は情報をオープンにして互いの信頼関係を深め、取引関係から取組関係へ、価値を交換する相手から同志へと関係を変える、その質を高めることにある。第三に徳を高め、志実現のために自己の目先のニーズや利益を手放すことである。
価値創造型交渉の実践者としては渋沢栄一が挙げられる。渋沢は第一国立銀行の設立をはじめとして500に及ぶ企業の設立、発展に寄与した大実業家である。その理念は道徳経済合一(論語と算盤の一致)である。日本資本主義の父、社会事業の祖といえる渋沢栄一は経営の独裁に反対し、合本主義を唱え、拡げていった。交渉においては、誠心誠意を尽くし、粘り強く一人一人徹底的に話し合うスタイルが特徴だったといわれる。渋沢のベースには常に社会のためという志と道徳経済合一を実践しようとする強い信念、高い道徳性があった。私心なき姿勢が生み出す価値創造型の交渉により多くの賛同者を得て日本の経済基盤を支える500もの企業を生み出したのだと考えられる。
渋沢栄一は真の交際法について次のように述べている。「いわゆる交際下手な人でも、至誠をもって交われば、必ず相手に通ぜぬということはない。巧妙にしゃべっても、心に至誠を欠いての談話なら、相手をして軽薄と感ぜしむるほか、なんら効果もないものである。ゆえに余は、交際の秘訣は誰一片の至誠に帰着するものであると言いたい。もし人に対した時、偽らず、飾らざる自己の衷情を流露し、対座の瞬間においてまったく打ち込んでしまうことができるならば、それは百の交際術、千の社交法を用いたよりも、遥かに超絶した交際の結果を収得することができようと思う」
安藤 雅旺 プロフィール
株式会社トランスエージェント 代表取締役
NPO法人日本交渉協会 代表理事
二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(経営管理学修士MBA)
株式会社ジェック(人材開発・組織開発コンサルティング業)での営業経験を経て独立。2001年株式会社トランスエージェントを設立。
2006年上海に中国法人上海創志企業管理諮詢公司を設立。
「仁の循環・合一の実現」を理念に、BtoB営業・マーケティング支援事業、
交渉力・協働力向上支援事業、サステナビリティ経営支援事業を展開している。
著書・翻訳
心理戦に負けない極意 中国に入っては中国式交渉術に従え 交渉学のススメ