営業人のための表情・しぐさ分析入門―言外の想いや意図を察する技術vol.5

第5回 マニピュレーター

こんにちは。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問の清水建二です。vol.1~4にわたって、表情に注目してきました。今回から、表情に加え、日常・ビジネス場面で観られるボディーランゲージにも視点を向けたいと思います。

本連載では、ボディーランゲージのことを大まかに、表情以外の身体動作及び姿勢と定義します。ボディーランゲージと表情の大きな違いは、発見のしやすさです。ボディーランゲージは、表情に比べ、動きが大きいため、目に入りやすいのです。したがいまして、非言語観察力を高める、あるいは、非言語を利用してより良くコミュニケーションをしたいと考えるとき、ボディーランゲージから表情の観察へ移る、というのも有効だと思います。具体的なボディーランゲージを通じて見てみましょう。

身体の一部で他の身体の一部を触る動作をマニピュレーターと言います。頭を撫でる、毛先をいじる、顔に触る、顎をさする、胸元をなでる、腕をつねる、手と手をすり合わせる等々あります。「顎をさする」ならば、身体の一部の手で他の身体の一部の顎をさする(触る)ということになります。

適用範囲を広くとらえると、身体の一部で自身の近くにあるモノを触る動作もマニピュレーターに含まれます。貧乏ゆすりをする、机上にある書類の角をペラペラさせる、ペンをいじる、机をタップする等々あります。

マニピュレーターは、私たちの感情が不安定になっているときに生じます。マニピュレーターをすることによって、不安定な感情が落ち着くのです。幼い頃、母親に頭を撫でられ、癒されたことを起源とする説や落ち着かない感情を手(前足)をどこかに着け安定させることで落ち着かせる、という四足動物の頃の名残とする説があります。

マニピュレーターは、少し気をつければ目にしやすいので、非言語観察の導入的なトレーニングとしては最適です。ただ、マニピュレーターだけを見ていてもどんな感情が不安定になっているかはわかりません。

楽しいことを体験し、興奮している自分を落ち着かせるためにマニピュレーターが生じることもあれば、失恋し、悲しみにくれている自分を慰めるためにマニピュレーターが生じることもあれば、ウソをついていないのに、ウソを疑われ緊張している自分を安心させるためにマニピュレーターが生じることもあります。

そこで、マニピュレーターの気づきをきっかけに表情など他のサインやシグナルに注意を向けると、特定の感情が見えてくることがあります。

会社設立間もない頃の実体験です。「微表情とは何でどう活用できるのか」ということをある会社員の方に営業する機会がありました。私が話していると、その会社員の方が顎をさするマニピュレーターをするのが目に入りました。目線を少し上に移し、表情を観ると、片方の口角が引き上げられる動き、つまり、軽蔑表情をしていることに気づきました。

軽蔑表情の中にマニピュレーターが生じているということから、軽蔑感情や優越感が大きくなりそれを抑えようとしているのだな、と私は思いました(軽蔑や優越感という言葉は、日本語としては冷たいイメージが伴いますが、このカテゴリーには得意気という感情も含まれるため、軽蔑を必ずしもネガティブに解釈する必要はありません)。

そこで、微表情ビジネスを広げる名案はありませんか等々と優越感を刺激する質問したところ、後日席を用意するとのことで、中小企業診断士を紹介して下さり、その会社員の方―実はこの方も中小企業診断士でした―含め、6名もの診断士に相談を聞いて頂く機会を持つことが出来ました。

私が、非言語に気づき、その会社員の方の感情に適切に乗れなければ、この方もここまで乗り気になり、多くの診断士仲間を紹介してくれることはなかった可能性があります。

私はよいアドバイスを頂け、その場で商品を購入して頂くことが出来、診断士の方々も中小企業の相談を聞くというノルマを達成することが出来ました。マニピュレーターの気づきを発端にwin-winにつながった体験です。

今回は、マニピュレーターの気づきから表情観察という流れを紹介しました。次回は、マニピュレーターが生じる状況に焦点を合わせます。具体的には、「あと一押しでお客さんが商品を買ってくれる可能性が高い」状態をマニピュレーターから推測する方法を紹介したいと思います。

参考文献
清水建二『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版 2016年


清水建二 プロフィール

特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役
防衛省研修講師


1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動、犯罪捜査協力等を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組(「この差って何ですか?」「チコちゃんに叱られる」「偉人たちの健康診断」など)で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社、共著に『同頻溝通:把話說進對方的心坎裡』今周刊がある。

【著作】
『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社
『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版
『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス
『同頻溝通:把話說進對方的心坎裡』今周刊(共著)


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