Vol.1 なぜ与信管理なんて必要なんですか?
このコーナーでは、営業人の方にぜひ知っていただきたい会計・財務の基礎知識を、質問形式で解説します。皆さんが部下や後輩から同じような質問をされたとき、ちゃんと回答できるか、自問自答しながらお読みください。このコーナーを毎月コツコツと読み続けていただけば、気づいたときには会計・財務に強い営業人になっているはずです。
Q.「与信管理」って、なぜやらなければいけないのですか? 得意先に「決算書をください」なんて言いにくいですし、財務分析なんて私の専門分野ではありません。
与信管理とは、得意先(売り先)の概要や経営状態などを調べて、その会社と取引をして良いか(信用調査)、また売掛金をいくらまで増やして良いか(与信限度額の設定)、などを検討・管理することをいいます。
営業担当者が行うこの与信管理ですが、実は「銀行が企業に融資をするときに行う審査と同じ」なのです。
そもそも、売掛金というのは、商品を得意先に売ったのに代金をもらっていない「つけ」「掛け」をいいますが、見方を変えると、「商品を売ったときに、得意先から代金の全額を一旦受け取り、同時にその全額を得意先に“無利息で”貸し付けた」のと同じです。
企業が銀行から融資を受けるとき、決算書や資金繰り表を提出し、銀行員から嫌味な質問をされ、やっとの思いで融資を受けられます。個人が住宅ローンを組むときも同じです。年収を証明する資料を提出して、様々な資料にハンコを押して…、大変な手続きがあります。
銀行がお金を貸すとき、こんなに慎重に企業や個人のことを調べるのに、企業が企業にお金を貸すとき(しかも無利息で!)、財務内容を全く調べないなんて、おかしいですよね。
逆に言えば、全額を現金でもらえる得意先なら、信用調査は必要ですが、与信限度額の設定はしなくてもよいわけです。だから我々がスーパーで買い物をするとき、年収を証明する資料なんて要求されません。
このように考えると、「営業」という行為は、商品やサービスを売るだけでなく、お金を貸すという要素も含まれます。だから、営業の方は取引先を訪問したとき、商品やサービスを売り込むと同時に、この会社に経営不振の予兆はないか、何か粉飾決算のようなことをしていないか、といった銀行員の目もあわせもつことが必要ともいえます。
今日のキーワード:与信管理
望月 明彦 プロフィール
トランスエージェント講師
特定非営利活動法人 日本交渉協会 常務理事
■公認会計士 ・ 交渉アナリスト
≪役職等≫
・ 望月公認会計士事務所 代表 (現任)
・ 日本交渉協会 常務理事 (現任)
・ ディップ株式会社監査役 (東証1部上場)(現任)
・ アイビーシー株式会社監査役(東証1部上場)(現任)
・ 日本公認会計士協会東京会 研修委員会 副委員長(2010~2014)
・ 経済産業省コンテンツファイナンス研究会 委員(2002~2003)
≪略 歴≫
早稲田大学政治経済学部卒。
監査法人トーマツを経て、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。
その後、上場企業の経営企画部長として資本政策の立案・実施、合弁会社の設立、各種M&Aなどを手掛ける。
さらに、アーンストアンドヤングの日本法人にて上場企業同士の経営統合のアドバイザー等を務める。
2010年より望月公認会計士事務所代表。日本交渉協会常務理事。