Vol.10 上場企業でも粉飾しますよね。なぜそんな悪いことするんですか?
営業人のための一問一答で学ぶ!財務知識vol.10
第10回 上場企業でも粉飾しますよね。なぜそんな悪いことするんですか?
このコーナーでは、営業人の方にぜひ知っていただきたい会計・財務の基礎知識を、質問形式で解説します。皆さんが部下や後輩から同じような質問をされたとき、ちゃんと回答できるか、自問自答しながらお読みください。このコーナーを毎月コツコツと読み続けていただけば、気づいたときには会計・財務に強い営業人になっているはずです。
Q.「上場企業が粉飾していたっていう記事が新聞に大きく載ることがありますが、粉飾って悪いことですよね。なぜ、上場企業がそんな悪いことをするんですか?」
「粉飾」とは、利益がないのに、利益があるように決算書(特に貸借対照表や損益計算書)にウソを書くことです。赤字を黒字に見せかけるのです。では、なぜ会社は「粉飾」などするのでしょうか?それは「自分のため」の場合と、「会社のため」の場合があります。
一つ目の「自分のため」というのは、経営者や従業員が自分の懐にお金を入れる、「着服」です。会社のお金を盗んで、それがばれないように粉飾するのです。経営者が、赤字になるとクビになるので粉飾をするのもここに入ります。
二つ目の「会社のため」というのは、会社が倒産しないように、という意味です。会社が赤字になると、銀行から借入れをするのが難しくなるため、粉飾して利益を出すのです。
海外では「自分のためにする粉飾」が多いのに対して、日本では「会社のためにする粉飾」が多いと言われます。日本人は、普段は善良な経営者や従業員も、「会社のため」という名目があると、悪いことをできてしまうのです。会社のために、自分を犠牲にして悪事に手を染めてしまうわけですが、これが海外の人には理解できないらしいのです。
しかし、粉飾は割に合いません。粉飾をすることで短期的に会社は生き残ることはできても、いつかはお金が回らなくなってしまうからです。
粉飾が発覚して倒産すると、関係者はみな不幸です。株主の株式は紙切れになりますし、役員は訴えられてみじめな人生を送ることになります。社員も転職活動をしなければならなくなるものの、あの粉飾していた会社で働いていた社員というレッテルが張られてしまうかもしれません。また取引先はお金を回収できず、連鎖倒産なんてこともあり得ます。
無理して粉飾などするより、さっさと見切りをつけて、新しい経営者を迎え入れたり、大手企業の傘下に入ったりして、真面目に生き残る道を探したほうがよっぽどマシです。
このように、粉飾は関係者をみな不幸にしてしまうものの、一人だけ儲かる関係者がいるのです。誰でしょうか?それは税務署です。税務署は粉飾してくれたおかげで法人税をがっぽりもらえたわけです。
望月 明彦 プロフィール
トランスエージェント講師
特定非営利活動法人 日本交渉協会 常務理事
■公認会計士 ・ 交渉アナリスト
≪役職等≫
・ 望月公認会計士事務所 代表 (現任)
・ 日本交渉協会 常務理事 (現任)
・ ディップ株式会社監査役 (東証1部上場)(現任)
・ アイビーシー株式会社監査役(東証1部上場)(現任)
・ 日本公認会計士協会東京会 研修委員会 副委員長(2010~2014)
・ 経済産業省コンテンツファイナンス研究会 委員(2002~2003)
≪略 歴≫
早稲田大学政治経済学部卒。
監査法人トーマツを経て、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。
その後、上場企業の経営企画部長として資本政策の立案・実施、合弁会社の設立、各種M&Aなどを手掛ける。
さらに、アーンストアンドヤングの日本法人にて上場企業同士の経営統合のアドバイザー等を務める。
2010年より望月公認会計士事務所代表。日本交渉協会常務理事。