営業人のための一問一答で学ぶ!財務知識vol.12

第12回 「押しの強い営業」と「押し込み販売」の違いって何ですか?

このコーナーでは、営業人の方にぜひ知っていただきたい会計・財務の基礎知識を、質問形式で解説します。皆さんが部下や後輩から同じような質問をされたとき、ちゃんと回答できるか、自問自答しながらお読みください。このコーナーを毎月コツコツと読み続けていただければ、気づいたときには会計・財務に強い営業人になっているはずです。

Q.「僕は“押しの強い”営業を武器にしているのですが、先日上司から、押しの強い営業は良いが、“押し込み販売”はダメだぞ、と言われました。何が違うのですか?」

「押しの強い営業」とは、営業社員の個人的な営業スタンスの話であり、積極的に売り込む姿勢のことです。それに対して、「押し込み販売」とは不正売上の話です。ですから、この二つは似ているようで問題の大きさが全く違うのです。
例えば、期末日近くになり、売上や利益の予算が達成できないということで、自社に対して立場の弱い取引先に強引に商品を販売することが「押し込み販売」です。欠陥品や陳腐化した商品を子会社などに強引に販売することも押し込み販売です。
「押し込み販売」が発見された場合、会計上はその売上は「なかったこと」として処理されます。例えば、押し込み販売によって、仕入原価30万円の商品を100万円で販売し、70万円の利益を増やしたとしても、決算ではこの売上高100万円も売上原価30万円も利益70万円もなかったことにするのです。
こう説明すると、営業社員の方は、「それはおかしい。何だかんだ言っても、相手は納得して購入したんだから、売上にあげて良いはずだ」と反発したくなるかもしれません。確かに、契約上は有効な取引かもしれません。しかし、会計は法的な側面よりむしろ実態や実質を重視します。この押し込み販売は正当な売上とは言えませんし、今後返品される可能性も高いという事実を優先するのです。
現実には「押しの強い営業」と「押し込み販売」の境界線は難しいのですが、一般的に「押しの強い営業」は営業社員の個人的な問題であるのに対して、「押し込み販売」は営業社員が個人的に行う場合もありますが、一般に営業部長や取締役、社長などの経営層が中心になって行う組織的なものであることが多いです。
押しの強い営業も、一歩間違えれば「押し込み販売」になるリスクがありますし、度を越えた営業は「コンプライアンス」の観点からも問題になり得ますから注意するべきでしょう。
今の時代は、「押す」だけでなく「引く」ことも大切です。「押しの強い」営業社員ではなく、「引き合いの多い」営業社員を目指していただきたいところです。


望月 明彦 プロフィール

トランスエージェント講師
特定非営利活動法人 日本交渉協会 常務理事

■公認会計士 ・ 交渉アナリスト

≪役職等≫
・ 望月公認会計士事務所 代表 (現任)
・ 日本交渉協会 常務理事 (現任)
・ ディップ株式会社監査役 (東証1部上場)(現任)
・ アイビーシー株式会社監査役(東証1部上場)(現任)
・ 日本公認会計士協会東京会 研修委員会 副委員長(2010~2014)
・ 経済産業省コンテンツファイナンス研究会 委員(2002~2003)

≪略 歴≫
早稲田大学政治経済学部卒。
監査法人トーマツを経て、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。
その後、上場企業の経営企画部長として資本政策の立案・実施、合弁会社の設立、各種M&Aなどを手掛ける。
さらに、アーンストアンドヤングの日本法人にて上場企業同士の経営統合のアドバイザー等を務める。
2010年より望月公認会計士事務所代表。日本交渉協会常務理事。


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