vol.10 営業人のための表情・しぐさ分析入門―言外の想いや意図を察する技術

表情分析技術・研究の根底を支える方法論-FACSとは?

こんにちは。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問の清水建二です。これまで、営業場面を始めとしたコミュニケーションが行われる場における表情・身体動作の読みとり方や、活かし方を紹介してきました。本連載を読まれる中で、「清水の解説はどれほど妥当性があるの?」と思われている方もいらっしゃるかも知れません。ご懸念、よくわかります。表情と感情の関係は、私たち誰もが日常的に経験し、直感的に理解できるものもあるため、ややもすると「何となく」の解説が通じてしまうことがあります。「何となく」の観察で理解できたと思い込んでしまうこともあるでしょう。そこで本日は、清水が寄って立つ表情分析の方法論について紹介したいと思います。

表情分析技術・研究の根底を支える方法論―FACSとは?

清水が依拠する表情分析の方法論は、FACS(ファクス)です。FACSの考え方を用いて研究し、皆さまに教授し、日々のコミュニケーションに活かしております。

FACSとは、Facial Action Coding Systemの略で、日本語では顔面動作符号化システムと言います。このシステムは、視認可能なあらゆる顔面筋の動きを測定するために1978年に米国の心理学者ポール・エクマン及びウォレス・フリーセンによって開発されました。

FACSには、顔の解剖学的な知見を基にしたAU(アクション・ユニット)と呼ばれる識別可能な最小の動作単位、解剖学的な知見が不明瞭であるものの識別できるAD(アクション・ディスクリプター)と呼ばれる動作単位、その他補完的なコードが定義されています。2002年改訂版FACSマニュアルには、27個の顔の基本動作に関するAU、25個の頭と目を記述するコード、28個の補完的なAU及びAD含むその他コードが含まれています。

FACSの手法を用いて分析するには、700ページ強のFACSマニュアル及びInvestigatorガイドに習熟し、FACS認定試験に合格する必要があります。合格には、受験者のコード群と正解のコード群との相関が0.7を超えることが要求されます。おおよそ50~100時間くらいの学習で合格し、試験にパスすると認定FACSコーダーとなります。

表情分析をするにあたり、一人の認定FACSコーダーが対象人物の顔面筋の動きを分析します。1分の分析動画に100分ほど分析時間がかかります。その後、分析の客観性を保つために、分析内容を知らないもう一人の認定FACSコーダーが独立して同じ顔面筋の動きを分析します。そして両者のコード群の相関を計測し、0.8~0.9を超えるものが、客観性のあるデータとして残ります。なお、0.8~0.9の相関の精度を保つには、FACS合格後、FACSを用いたトレーニングを1000時間以上行う必要があります。

FACS開発以降、FASCは様々な表情研究に用いられ、2021年現在、顔面筋の動きを包括的かつ客観的に分析できる信頼性の高い世界標準の表情分析マニュアルとして認知されています。主な利用者は、心理学者や工学者、アニメーター(有名なところですと、ピクサーのアニメキャラクターの表情生成にFACS技術が活用されています)です。また、近年流行の感情認識AIの根底にはFACSがあったりします。

このFACSの方法論や専門用語を日常・ビジネスコミュニケーションの文脈で語りなおしているのが、私、清水の説明です。

資格と学びの関係

表情分析の専門家を目指すならば、FACS習得は必須です。清水が運営する(株)空気を読むを科学する研究所の開講講座から60名ほどのFACSコーダーを輩出しております。日本のFACSコーダー数は、推定70-80名ほどだと考えられますので、大半が本研究所出身となります。FACS合格後、継続的にFACSのトレーニングを続けられている方は、私が把握している範囲で10-20名程度です。

この数字が多いと考えるか少ないと考えるかは、資格に対する考え方によると思います。FACSという資格取得を最終目標としていれば、学習終了となります。ただ、表情の専門家を目指すならば、「FACS合格をもって表情分析の専門家としての入り口に立った」。これが、長年の表情分析の研究・実践を通じた私の感覚です。

一方、表情を厳密に分析・研究・考察・解説するわけではなく、日常・ビジネスコミュニケーションで遭遇する表情をリアルタイムで読み、より良いコミュニケーションにつなげることに表情分析・観察の知見とスキルを活かそうと考えている方にとっては、FACSは必須ではありません(もちろんFACSを習得すれば、観察力の精度は向上します)。

質の高い日常・ビジネスコミュニケーションを実践するには、刻々と変化する表情を瞬発的に読み、状況に応じたアプローチにつなげられるスキルがあることが重要です。こうしたスキルを養成する目的で、「交渉アナリスト表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」を開発しました。このコースでは、FACSの方法論と表情研究を土台に日常・ビジネス経験をアレンジしたメニューを通じて、実践力を養成して頂くことが出来ます。学習終了後、認定試験に受かれば、資格取得することが出来ます。資格取得が目標なら、学習終了です。しかし、コースで学んだ視点でコミュニケーションを見つめ続けるとき、その汎用性の広さや私たちの表情と感情の奥深さ、彩を日々、驚きを持って体感することになると思います。

驚きの機能は、知りたい、です。学習中、驚きが続くだけでなく、コース終了後も、知恵熱が冷めることはないでしょう。表情と感情の世界にどうぞ。画面の前で、ときに、ライブ講座でお待ちしております。


参考文献

Ekman, P., & Friesen, W. V. (1978). Facial action coding system: A technique for the
measurement of facial movement. Palo Alto, CA: Consulting Psychologists Press.
Ekman, P., Friesen W.V., & Hager J. C. (2002). Facial action coding system: The manual. Salt Lake City, UT: Research Nexus.


清水建二 プロフィール

特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役
防衛省研修講師


1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動、犯罪捜査協力等を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組(「この差って何ですか?」「チコちゃんに叱られる」「偉人たちの健康診断」など)で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社、共著に『同頻溝通:把話說進對方的心坎裡』今周刊がある。

【著作】
『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社
『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版
『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス
『同頻溝通:把話說進對方的心坎裡』今周刊(共著)


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