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営業人のための表情・しぐさ分析入門

Vol.11 信頼を得るための態度

こんにちは。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問の清水建二です。商品の買い手は、衝動的に購入を決定しない限り、売り手側と交渉を重ねます。買い手の関心は、商品それ自体の品質だけでなく、売り手の人格や性格、態度にも向けられます。類似の商品があればあるほど、後者の方が大きな関心事になるでしょう。商品説明が誠実か、購入までの手続きが滞りなく進みそうか、購入後にサポートが必要な商品なら丁寧な対応が期待できそうか等々、気になるからです。

一方、売り手としては、買い手が抱く諸々の不安について問題なく誠実に対応できる自信があったとしても、その態度が伝わらなくては買い手に信頼してもらえません。そこで、本日は、信頼を得るための態度についてポイントを紹介します。より大きな視点から交渉というコミュニケーションの場を生み出す、あるいは継続させるためのTipsです。

信頼を生み出す態度

相手から信頼を得るには、ラポート(ラポール)を形成する、という言葉に集約されます。ラポートとは、人と人との間にある親しみの感情のことを言います。ラポートを形成することで、自身と相手の間に信頼関係と心理的な架け橋を創り出すことができます。ラポートを形成するためのテクニックは色々ありますが、最も大切なことは、相手を心から尊重する態度です。どうすれば、こうした態度になるのか。自身の人格を日々磨き続ける、ということに尽きるのですが、具体的に実践しやすい消極的な方法と積極的な方法を紹介したいと思います。

消極的にラポートを形成するには、相手に不快な気持ちを引き起こすような言動を無意識にしていないか、注意することが大切です。相手はこちらの何気ない言動に不快感を覚えることがあります。質問の仕方、語尾の付け方、話し方、クセ、姿勢などがあります。時間のない人にとって、ゆっくりすぎる話し方はイライラさせる可能性があります。貧乏ゆすりやペン回し、机を指でタップする、こうした無意識のクセが相手を不快にさせ、ラポート形成を阻害させている場合があります。したがって、相手の様子に気を配り、自身の言動が相手の不快感の根源となっていないか注意することが大切です。

積極的にラポートを形成するには、相手の話を積極的に聞く、ということが大切です。相手の話をしっかり聞いていることを示し、より多くの話をしてもらうには、話を聞く態度、すなわち傾聴態度に気を配る必要があります。傾聴態度の基本は、感情の認識、頷き、アイコンタクト、前傾姿勢、オープン姿勢です。感情の認識とは、相手の感情や心の状態を受け取り、共感していることを自身の表情や言葉で表すことです。最も基本となるのは笑顔です。笑顔は相手に「私はあなたの仲間です」というメッセージを与えます。そして、過度な笑顔は避け、適宜、相手の感情状態に沿うように表情や言動を変化させることが大切です。ポイントは相手に共感するということです。相手が驚くような話をしているならば驚いて見せたり、相手が辛い話をすれば、悲しみ表情をするといった按配です。表情でリアクションをすることが難しいならば、相手の感情を言葉にするのも一つの方法です。相手の苦しい心情を聞き、「それは、お辛い体験をされたのですね」という要領です。

頷き、アイコンタクト、そして前傾姿勢も、相手の話を真剣に聞いていることを示すことが出来ます。大切なことは、全て適度にする、ということです。過剰な頷きは、話を聞いていない・急かしているという印象を与えます。過剰なアイコンタクトは、相手の心のプライバシーを犯す印象を与えます。相手の話をずっと前傾姿勢で聞いている状態は不自然です。あくまでも自然に、そして少し意識して、頷き、アイコンタクト、前傾姿勢を行うことが大切です。相手の話を聞いているときの基本姿勢は、オープン姿勢が望ましいです。オープン姿勢とは、手や腕、足などを組まずに、相手に胴体を向ける姿勢です。オープン姿勢は、相手に「あなたを信頼しているので、私はあなたに何も隠していません」という印象を与える効果があります。

信頼を壊す態度

一方、相手から信頼を得られない、信頼を壊してしまう態度があります。先に説明したラポート形成と逆のことをしていれば、信頼を得られる可能性は著しく低下します。一方、相手の話を静かに聞き続けるという忍耐がないゆえ、あるいは、自我が出過ぎてしまうゆえに信頼形成を阻害させてしまうこともあります。

相手の話をじっと聞く忍耐強さのない人によくある返答の仕方は、話しを遮る、というものです。通常の会話では、人は1分以上の話を聞いていると、「長い」と感じる傾向にあります。通常の会話では、相手が話を終える前に、相手の話を遮り、お互いの発言が重なり合うことも普通かも知れません。しかし、相手の本音を聞き出したいとき、そのような会話の仕方は慎むべきです。相手の発言が終わるまで待つ、というのは一見簡単そうに思えても意識していないと難しいものです。相手が自分の言いたいことを言い終わるまで待つ忍耐強さが大切です。もちろん、相手の発言をサポートするために発言の途中で助け舟を出したり、相槌を入れるのは、この限りではありません。

自我が出過ぎてしまう状態は、共感的横取り、安易な解決策提示、単純要約という返答態度に表れます。共感的横取りとは、相手の発言に対して「あ~わかる!わかる!そうですよね。自分も~」と言って相手の発言の一部を自分勝手に解釈して、自分の体験を語り出してしまったり、仮に相手の発言を正確に解釈していても、凄く共感できるゆえに話の主導権を相手から奪ってしまうことを言います。一見、相手に共感を寄せているようですが、解釈が自分勝手な場合、「この人、自分のこと何もわかっていないな」と思われてしまう恐れがあります。また相手のことを本当に理解していたとしても、自身が話の中心になることはオススメしません。特に相手が話をしたいモードに入っているときに自身が長時間会話を続けてしまうと、話を続ける意欲を阻害してしまうことがあります。相手が一度自分の想いを吐き出し始めたら、吐ききるまで聞き役に徹することが大切です。

安易な解決策提示とは、相手が悩んでいることに対して安易なアドバイスを与えることです。相手が具体的なアドバイスを求めている場合、解決策を真剣に考えることは共感を形成する上で必要でしょう。しかし、安易なアドバイスは相手に「全然自分のことをわかっていない」というような落胆や軽蔑心を引き起こしてしまう恐れがあるため、アドバイスがつい口をついて出そうになったら気をつけて下さい。「本当に自分は相手の悩みを深い部分まで聞き出した上でアドバイスをしようとしているのだろうか」「本当に相手はアドバイスを求めているのだろうか」と自問自答してみて下さい。

単純要約とは、「要するにあなたの言いたいことは~のことですね。」と相手が一生懸命に話したことを単純化してしまうことです。相手は「そんな単純なことではない!」と不快に思う可能性があります。相手の話の内容を再確認する必要があるときは、相手に要約してもらうか、一つ一つ話題ごとに順を追って、相手の話の内容を「○○は~ということですか。」「△△は~という意味ですか。」と確認することが大切です。

このように俯瞰的に見つめますと、売買交渉だけでなく、上司・部下間の会話、同僚間の会話、夫婦の会話、親子どもの会話でも知らず知らずのうちに信頼形成を阻害する態度をしてしまっているかも知れません。

相手は鏡。相手の態度は自分の態度の裏返しかも知れません。相手を見つめ、自分を見つめるトレーニングをしましょう。こんなトレーニングをお探しの方は、「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」のご受講をオススメします。筆者の清水が教材作成・講師を担当しております。


参考文献
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 安納 献 (監修), 小川 敏子 (翻訳)『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』(2018)日本経済新聞出版


清水建二 プロフィール

特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役
防衛省研修講師


1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動、犯罪捜査協力等を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組(「この差って何ですか?」「チコちゃんに叱られる」「偉人たちの健康診断」など)で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社、共著に『同頻溝通:把話說進對方的心坎裡』今周刊がある。

【著作】
『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社
『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版
『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス
『同頻溝通:把話說進對方的心坎裡』今周刊(共著)


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